14/06/29

にごりえ

『これでいいのだ』

入団する前、私にとって《四畳半》 はかっこいいポーズだ。不思議、ミラクル、ウルトラフォームな表現だ。これ一つで、人間の本質を一瞬に理解し、宇宙全体の仕組みが分かるんだ!これこそ、真理! と思っていた。

まぁ、実際は違う。
全然できん。

「ヨジョウハン!」 って唱えれば、できてしまう! とか、そんな簡単なもんではない。しかも、「《四畳半》 に憧れて、山の手事情社に入団しました」 と言えば、上の先輩に(嫌味では無く)鼻で笑われてしまう。

じゃぁ、『にごりえ』 では《四畳半》 は演らないの?

いやいや、そこは山の手事情社。若手のみでも、もちろん演ります。むしろ、若手だけだからこそやる意味があります。ある筈です。

なんで?

だって、私達は経験は少なくとも、演劇を信じる思いは、先輩にも誰にも負けたくないからです! いや、違う!! そんな、かっこいい理由では無い。ただ、若手が《四畳半》 の「経験的な素人」 だからこそ、面白いものが生まれると信じているからだ。あと、稽古も馬鹿みたいにやっているからだ! (これは、いつもか…。)

先日、エチュードで、断末魔の声を上げながら、スローで石化する同期をみて。「あ、これか?? 」 と思った。《四畳半》 で語られる役は、断末魔の声を上げているのだ。

うーん、どうだろう?
いや、違うか?
じゃ、これはどうだ?
そんな風に悶々している。

既に歴史もあり、思想のある集団で新しいモノ、過去を差し置いて面白いモノを作るって、本当に難しい。誰がそれに挑むのか?いやぁ……、若手(私)だろっ!

否定して、理解して、肯定して、表出して、失敗して、繰り返して、、、そんな毎日。

「これが一生か。一生がこれか。」(『にごりえ』より)

うん、それで良いよっ! 受け入れさせてっ!

まだ、二週間もある。そして、公演が始まって終わっても、これは一生続く。その人生は、私にとって本当の意味で初めの一歩に近い。だからこそ、今から演る『にごりえ』は面白い作品とそんな時間と空間になる筈。

若手公演『にごりえ』、乞うご期待。

中川佐織

14/06/28

にごりえ

『これが一生か…』

私は物をよく落とす。

携帯電話はいつだって傷だらけだし、ペンとか本とか包丁とかお箸とか、手に持った物はとりあえずこぼれ落ちて行く。握力は人並みのはずなのだが。

今日など、レシピを見ながら丹精込めて作った“万能しょう油ダレ” なるものを冷蔵庫に入れようとして、床にぶちまけた。当然タレはすべておじゃん、周りにあったじゅうたんも布団も本もタレまみれ。それを拭いたり洗濯したり、でもなかなか綺麗にならなくて、びっくりするぐらい時間と労力がかかって…。それはそれはあまりに情けなく、ものすごくみじめで、悔しくて悲しくて、本当にどうしようもない陰鬱な気分だった。私には、いつものことだったからだ。

これでも私は、こういった自分の不注意さ・だらしなさを心によくよく刻み込み、細心の注意を払って生きている、つもりなのに。

それなのに、このザマだ。ほんの少し、気をつければ、回避できた、はずなのに。それなのに、このザマだ。

果たして私は、一生このままなのだろうか。こうやって私は、モノばかりか、成功も幸せもなにもかも取りこぼしていくのだろうか…。

あまりに小さくくだらないことで、一葉にも劇団のみんなにも呆れられるかもしれないが、私が『にごりえ』に最初に共感したのは、この感覚であった。いつまでもどこにいてもつきまとう「自分」 に心底ウンザリしているのに、どうあがいてもこの「自分」から抜け出せない。私も、お力たちも、一葉も、そしてきっと、あなたも。

私はこの“自分にウンザリ” という感覚を手がかりに『にごりえ』 の世界を創造し始めている。
まだまだ小さくて浅くて陰影もない世界だ。これから、もっともっと自分にウンザリして、この感覚と闘ったり分析したりして、深みを増していかなくてはね。

苦しい作業が、必要です。
踏ん張らなくては。

名越未央

14/06/27

にごりえ

『劇団員安部みはると小栗永里子を紹介する』(劇団員紹介)

二人ともくせ者である。
この二人、同期生でありながら、どうにも仲がよくない。
そう感じるだけで本当は仲がいいのかもしれないし、やはり本当に仲が悪いのかもしれないが、
本当のことなどどうでもいい。
とにかくそう見える。
たぶん、性格が真逆なんだろう。

みはるは、チョーがつくほどせっかちなタイプでいつもイライラしながら怒っている。
本人には言えないが、例えばこちらから何かお願いするときでも、ついつい機嫌をうかがってしまう。
イライラ中に話すとこちらが地雷を踏んでしまうからだ。

一方永里子の方は、のんびり屋さん。やたらスローペースだ。
話し方も行動も考えてることも、とにかくピシッとしてないのだ。
ふにゃふにゃしている。
急ぎの大事なメールをしてもその日のうちに返ってきたことは一度もない。
そういうところは全然信用出来ないのだ。
もちろんこれも本人には言えない。

この二人はお互いイライラし合っているんだろうけど、そもそも水と油なんだから、いっそ前向きに漫才コンビのように互いに高め合った方がいいんじゃないかねえ。

しかし、この二人、スタッフワークとなると俄然変わる。
みはるは衣装、永里子は照明、劇団で何かあるときはそれぞれ中心人物として動く。
もちろんきびきびと動く。ふにゃふにゃしてない。
自分でプランを立てるときにはかなりこだわる。

僕は自分にない才能を持ってる人間を素直に凄いなあと思ってしまうたちだ。
だから信頼している。

そんな二人が、今回『にごりえ』ではがっつりと俳優として頑張る。
先輩劇団員たちの重荷からも自由になり、得意のスタッフ仕事ではなく俳優として、彼女らがどんなこだわりを見せてくれるか楽しみなのだ。

もちろん普段のくせ者ぶりを発揮してくれなければ困る。

山本芳郎

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