元旦に稽古場へ向かう途中、
粕谷のお地蔵さんで甘酒をいただきました。
私の唯一の正月でした。
「お茶とおんな」です。
「なぜ稽古場が散らかっているのか」について。
はじめにこのお芝居の行く先を話していた時に、
淳子さんの口から
「ビーチみたいな雰囲気にしたい」
という言葉が出ました。
ビーチ。
それは数ある山の手用語の中でも、
もっとも心のチクチクするワードです。
10数年前。富山県は利賀村。晩冬。
演劇の聖地であるその場所の、意義や凄さは、
今は十分わかっているつもりですが、
当時「利賀村で一ヶ月間合宿して芝居をつくる」という
状況は、私たちにとって「軟禁」あるいは「拉致」でした。
雪積もる利賀村の合宿所にたどり着いた私は軽く放心して
「これから一ヶ月、耐えられるだろうか…」
と暗い気持ちでいたところ、
同室の淳子さんがなにやらでかい浮き輪のようなものを一生懸命膨らましている。
それはソファーでした。
常夏の海辺にあるはずのエアーソファーが、
冬の利賀のカビ臭い女子部屋に…。
「ここは利賀だけど、ビーチ(海辺)と思おうぜ!」
さびしい合宿生活のオアシスとなるように、
劇団員の癒しの場になるようにとの思いを込めて
つけられた部屋の名は「ビーチ」。
しかし、その部屋はあまりに居心地が良すぎたため、
劇団員のたまり場となり、部屋の住人が片付けに
無頓着だったため、あっという間にゴミ溜めに。
男子から「タコ部屋」「女郎部屋」「毒部屋」とののしられても、私たちはビーチが大好きでした。
【ビーチ】
汚い、散らかった部屋のこと。
厳しい環境での憩いの場。
たまり場。
【ビーチャー】
汚い部屋で平気な人。
または散らかす人。
ビーチの住人。
ビーチの雰囲気、なんとなく分かっていただけたでしょうか?
大久保美智子
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劇団山の手事情社×シアター・プロジェクト香川
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