11/08/18

社会人WS

番外編 PART-4                                    「いそがしい社会人のための演劇ワークショップ 第二弾」に向けて

「私とドラマ編」
話し手/小笠原くみこ、三井穂高

小笠原(以下、小)…日常のドラマをショート・ストリーズ(以下、S.S)にするんだけど、どんな時がネタになりやすいか。このことを、参加者の人に考えてもらうわけなんですが…

三井(以下、三)…思っている以上に、なかなかムズカシイですよね。最初は、それこそテレビドラマに描かれているようなことになったり、自分の日常の出来事をネタとして提供しようと思っても、なんとなくハズカシイから、差し障りのない出来事だったりして。

小…人間性がばれそうになるから、つい隠しちゃうよね。

三…やっぱり、私は、感情が大きく動いたときが見たい。そういう瞬間を切り取ることが大事だと思うんですよ。

小…うんうん。感情の心電図みたいなものがあったとして、普段は規則的に動いていても、何かが起こったときに大きく線が動いたり乱れたときを、S.Sのネタにするとおもしろいシーンになると思う。

三…劇団の稽古でもS.Sやるじゃないですか。私自身は日常の過ごし方が変わりましたね。何か起こったときに「これって、使えるかも!」ってアンテナを張るようになる。あと、自分も気持ちも他人の気持ちもすごく考えるようになりましたね。

小…客観的に自分のことや身の回りのことを捉える感覚ができるようになる。私は、自分の祖母が亡くなったときに、客観的にその場を見ている自分に気づいたよ。叔母さんや従兄弟の行動とか会話とか、全体を取り囲んでいる空気とか、居心地悪そうな別な伯母さんとか、機械的に動く看護婦さんの言葉とか。あー、人ってこういうときに、こういう行動になるんだなあーって思ったね。

三…そういうときって、決して悲しい気持ちが小さくなったってことではないですよね?

小…そうだね。冷静な態度っていうのとはちょっと違う。自分の中のことと、自分の外の世界、両方にアンテナをはっている状態っていうのかな。

三…今まで自分が漠然と思っていたことが、ハッキリしたり。自分に関係ないと思ってやりすごしていたことが、実はおもしろいと気づいたり。「これはこういうものだ!」って思っていたことが実はそうじゃないって気づいたりするようになりますね。

小…S.Sって、誰か一人が考えた脚本じゃなくて、チームの人のいろんな意見を取り入れながら作るじゃない? 自分が「こんなときにこんな風に感じた」ってことを他の人は違うってこともある。まずそこで、他人と違う感覚なんだってことに気づく。

三…人と違うってことがダメってことではなくて。でも「違うんですね、はいそーですか」となるとシーン作りが進まない。他の人の感覚と自分の感覚をすり合わせる時間が必要。自分の中に、違う意見を一度取り入れたり、出したりしながらシーンを作る作業が大事ですよね。すべてがそうとも言い切れないと思うんですが、相手の意見を取り入れながらすすめたほうが、よりおもしろいS.Sになるな、と思うんですよ。

小…たしかにそうだね。いろんな意見を検証してシーンにしたS.Sのほうがおもしろいことが多いね。

三…S.S作りって、ドラマを支えている人の感情とか感覚とかをより深く、話すことになりますね。



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11/08/11

社会人WS

番外編 PART-3  演劇に無縁な私                         「いそがしい社会人のための演劇ワークショップ 第二弾」に向けて        

たとえば私が演劇とはまるで無縁な生活を送っているとして、それは日本ではごくあたりまえの風景である。
そんな私が「ちょっと演劇でもやってみるか」
と思ったとする。
「ちょっとジョギングしてみるか」とか、
「ちょっと自分で料理できるようになってみるか」とか、
そういったノリで。

何から始めよう。
お芝居をするのだから、まず台本からさがそう。
そう思うんじゃないかな。
間違っても身体を鍛えよう、とは思わないだろうし。
仲間を集めよう、という知恵も働かないだろう。

どこかに教室でもないかな、
という好奇心は湧く。
でもカルチャーセンターをネットで検索しても、
どれがいいのか、わからない。
わからないよ。
やったことないんだもん。
そもそも何が必要なのか、そこからわからない。
図書館に行って「戯曲コーナー」を覗いてみる。
海外のは登場人物の名前からして難しい。やめよう。
日本のは、と…知っている人の台本もあるぞ。
なるほどなるほど。でも人数が必要だな。
誘っても人は集まりそうにない…。
発声練習? 必要なの? 
面倒だな。やっぱ、やめよう。

やめるでしょう。
どうやっていいのかわからない。
学校でも教わった記憶まるでないし、
部活で演劇やってる奴って、ダメな奴らじゃなかったっけ?
こんな感じで終わるのが見える。

演劇人口を増やしたい。
私たち山の手事情社が切に願っていることである。
そのために簡易な入口を設けたい。
そういう考えで、毎月、もしくはふた月に一度くらい、
「演劇ドック」
というワークショップを実施している。
2日間で演劇の基礎的なトレーニングを体験していただく。
台本は読みません。
そんな必要ないから。
台本なぞなくたって、演劇は十分に楽しめます。
むしろ短い期間だと台本なんて煩わしいだけ。
ちょっとしたルールを加えて身体を動かすと楽しいとか、
大きな声を出すと思いのほか気持ちいいとか、
わざと怒ってみると結構怒れて新鮮だとか、
そういうトレーニング。
それが入口。

さて、もう少し踏み込んでみたいぞ。
という人のために昨年から、少し長めのワークショップをやることになった。
「感情とからだ編」
「私とドラマ編」
二本立てだ。

演劇をやると、
やる前に思っていた以上に、
からだと向き合うことになる。
感情なんてやっかいなものも立ちはだかる。
演劇はスポーツじゃない。
むやみに動けばいいってもんじゃない。
ゴールもホームランもいらない。
好きな人を思って、ちゃんとくよくよしたり、
憎い奴を心底殺したい、と思えたりすることが重要だ。
できます?
すぐにはできない。
でも徐々にならできる。
からだを意識すると感情を強く出すことができるんです。
その方法をお伝えしよう、
というのが「感情とからだ編」

「私とドラマ編」の方は、
ちょっと演劇でもやってみるか、という人にお勧め。
演劇とは、つきつめるとドラマ。
図書館で台本眺めてたのも、
ドラマをやりたいからでしょ。
日常とは違うドラマを生きてみたいなぁ、
私たちは無意識に熱望し飢渇しているんです、実は。

それが戯曲という形になって保存されている。
山の手事情社の今回のワークショップでは、
そこはやらない。
その前とも言えるし、その先とも言える。

日常とは違うドラマを生きるっていうけど、
その前に私たちはどんなドラマに浸かって生きているのだろう。
「普通だなぁ」「くだらねぇなぁ」「もう飽き飽きだよ」
と思っていることってどんなドラマだよ、じゃあ。
ということを考える機会。

日常を超えたドラマってやつを、
それなら一丁、真剣に考えてみるか。
というのがその先の課題。

まず自分の日常やら生活やらを
じっくり見つめて、
もっともっと深いところまで見つめて行くと、
台本に頼らなくてもいろいろ出てくる。
集めなくてもとりあえず一緒に作る仲間もいる。

台本で作る芝居をとりあえずゴールと考えるなら、
スタートはどこなんだろう。
「自分」です。
その「日常」ですよね。
そこをしっかり把握していく。
それなしにドラマとかいっても
ぺらぺらな嘘っぱちだよ。

ま、入口としてはとっつきやすい。
演劇に無縁な私に面白がってほしい。

安田雅弘


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11/08/09

社会人WS

番外編 PART-2                                    「いそがしい社会人のための演劇ワークショップ 第二弾」に向けて

「感情とからだ編」
話し手/浦 弘毅、小笠原くみこ

小笠原(以下、小)…からだを動かすメニューが、山の手事情社では昔から多いんだけど、入団したときどう思った?

浦…相性が良かったよ。学生時代はずっと運動部だったから、汗かくことがすんなり受け入れられた。いわゆるリアリズムの演劇からこの世界に入ってたら、俳優やめてたかな〜。

小…でもさ、リアリズムの演劇って、山の手事情社もやらないわけではないじゃない?

浦…今は、嫌いじゃないよ。リアリズムの演劇もからだで考えるんだって思っているからさ。昔は誤解してたんだんだな。

小…私もさ、運動部だったけど、浦ほどすんなり受け入れられた感じはしないんだけど?

浦…例えば、オレは野球部だったんだけど。守備でボールが俺のほうに飛んできて、ボールを拾って、一塁に投げて、打者がアウトになるっていう場面があるとしてさ。飛んできたボールがシビアだったり、打者が走るの早かったら、一瞬考えて行動しているだけでも、遅れるんだよ。考えてから行動に移してたら遅い。どんな球技でもだいたいそうなんだと思うけど。

小…うんうん。分かる。からだが瞬時に反応できるように、いろんな場面を想定して練習するね。

浦…演劇でも、考えて「こういう気分かな?」ってやっていると、実は遅い。そうやってしまうとそれはウソの反応になるんだなー。考えるって行為を否定しているわけじゃないよ。考えることは、もっと別な時間。そういう意味でスポーツと似ているなと思う。

小…早く走れなきゃいけないとか、高くジャンプできたほうがいいとか、鋭い球を投げなきゃいけない、っていうようなことではない、運動能力ではないからだの捉え方ってことか。

浦…ウソじゃないその瞬間に生まれるからだと感覚を、どれだけ捕まえられるかが大事なんだと思うんだよ。その大事な瞬間を察知するのが早すぎても遅すぎてもウソになるんだなって思う。感情って、実はその瞬間の後にやってくるモノなんだと、俺は思うだよねー。

小…簡単に言えば、早すぎると予定調和になるし、遅すぎるとウソっぽい演技になってしまう、ってことだ。

浦…セリフってさ、そこに書かれてある内容を伝えようとすることじゃないんだよね。セリフじゃないところを物語っている俳優は魅力的だなと思う。それが、からだなんだなって思うんだよね。



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