11/07/04

傾城反魂香/ルーマニア

快挙

今、ルーマニアは資本主義の波が押し寄せ、大きな変化を遂げようとしている。
山の手事情社がルーマニア、シビウ国際演劇祭に毎年出展して3年が経った。
2009年当時はまだ野良犬が町を闊歩し、治安も決してよくはなく、夜一人で歩くと少し恐い感じがし、フェスティバル期間中のセキュリティーチェックも甘く間単に芝居を見ることができた。
今年は一変し、野良犬は町から消え、警察官による怪しい人への職務質問、フェスティバルのセキュリティーチェックも厳しいものになり、安心して町を歩ける環境へと変わりつつある。
いろんな情報が飛びかい、流行も少しずつ変化し、国民の価値観が変わる中で、
山の手事情社は3年連続メイン会場(ラドゥスタンカ劇場)での公演、
一昨年に続き今フェスティバルの最高作品に選ばれ、過去18回を数えるフェスティバルのなかで演出家の安田雅弘が外国人演出家なかで優れた演出家のトップ3に入る快挙を成し遂げた。
日々大きく変化するこの国で3年連続評価を得ることはただ事ではないと思う。
正直、とんでもない現場(山の手事情社)に足を踏み込んでいることに恐怖を覚える。

別に自慢をしたいわけではない。ただ『事実』をお伝えしているだけである。
日ごろ山の手事情社の公演にお越しいただいているお客様の応援なしでは、また、たくさんの方のご支援なしではここまでは来られなかったと私は思っている。
応援、ご支援いただいた皆様のためにも私は声を大にしていいたい。

「ヨーロッパ3大演劇祭の一つといわれている、シビウ国際演劇祭で劇団山の手事情社は最高の評価を得ることができましたッ!!!」

しかし、ここで終わるつもりは私にはさらさらないし、これからやらなくてはいけないことが山ほどあります。より優れた作品を作ることが皆様にできる最高の恩返しでしかありません。そのためにも本当の本番は海外公演だけではなく、12月のアサヒ・アートスクエアでおこなわれる、凱旋公演であることは言うまでもない。

浦 弘毅


11/07/04

傾城反魂香/ルーマニア

旅行記

○飛行機にて
首都ブカレストに着陸真近の機内にて。
深夜、機内は真っ暗。皆疲れてうつらうつらしている中、飛行機は着陸に向けて下降し始める。気流で微妙に揺れる飛行機。
突然、客室乗務員の男性が懐中電灯を客席に向けて大声で叫びだした。
「○◇△@#!!」
何言ってるかさっぱりわからなかったが、どうやら立ち上がった乗客に対して怒っているらしい。
「おい、テメー! 何立ってやがんだ! アブねーだろーが座らんかい!」
てな印象だった。
怒られた乗客も「チッわかったよ…」
てな感じで渋々着席。

着陸直前に意味もなく立ち上がる客と容赦なく怒る客室乗務員。驚いてテロかと思ったよ。
空気を読んで二人とも。

○第一の都市シビウ
2年前初めてシビウを訪れた際に、偶然お洒落なレストランを見つけた。
その店は入口は狭いが中に入るとテラスに緑が溢れ、鳥の鳴き声がBGM代わり、出てくる料理も優しい味で稽古に疲れた身体を癒してくれた。

この幸せな時間を皆にも味わってもらいたく翌年劇団員を連れて行ったが残念ながら定休日。
今年こそはとまたもや劇団員数人連れてランチタイムに訪れました。

まず店に行くとイカツイお姉様がお出迎え。
「何名? …10名? ウップス」
と呆れ顔。
「じゃあ好きな席に座って…」
と気だるい案内。

注文が決まり谷が「エクスキューズミー」と言うと暫くしてお姉様がやってきて
「大きな声を出さないで! 私がひとりでやっているんだから、モウ!」
と説教。
「じゃあビール…」
「ハァ〜」
と溜息。

その後出てくる料理は不味くはないが、なんか味気ないものに。2年前の思い出補正が強過ぎたのか。

でも会計を済ませ店を出る時は
「ムルツメスク!(ありがとう)」
と満面の笑みを見せてくれた。

お姉様の人との距離感がわからない…

○第二の都市トゥルダ
終演後打ち上げ会場に向かう廊下で、地元のアラフォーらしき女性2人が興奮しながら話しかけてきた。
「ブラボー! 今のスペクタクルとっても良かったわ、ンマッ!(投げキッス) なんていうかオリエンタルな感じが刺激的! ンマッ!(投げキッス) それに面白い動きね、こんな感じ?(クネクネする) ワッハッハ! 真似出来ないわ! あ、私達地元のアクトレスよ。お互い頑張りましょ!」
と舞台で見た歩行を真似してすり足で去っていった。

○第三の都市ブカレスト
オフの日大型スーパーに入ろうとしたら、入口で携帯電話の契約チラシを配っているポッチャリしたおばちゃんがいた。
日本人の集団を見ると
「ちょっとお話し良いですか? ブカレストは初めて?」
とそこそこ流暢な日本語で話しかけてきた。とびっきりな笑顔で。ちょっと驚いたが急いでいたので
「2回目!」
と言ってそそくさとスーパーに入った。

数分後スーパーを出ると又おばちゃんが
「ちょっとこっち来てよ」
と手招きしてくる。私は
「ハハッ、こんにちは」
と愛想笑いしてその場を去った。

数分後再び買い物しにスーパーに行くと又おばちゃんが
「ちょっとだけで良いから」
と又手招きしてくる。私は冗談交じりで
「あれ? あなたの事知ってる!」
と言うとおばちゃんもニターと笑い、しばし見つめ合った。

そして買い物を終えスーパーを出て、おばちゃんとまた絡むかなと視線を送ると
「……」
うんざりな表情をしてこちらを見て溜息をつかれた。
久々に蔑みの目で見られた。


ちょっと、いや相当自由なルーマニア人を羨ましいと感じたツアーでした。

川村 岳

11/07/01

傾城反魂香/ルーマニア

イャハー!

今回の海外ツアーで、どうしても頭から離れない人がいる。残念ながら、それは強烈に面白くない芝居の女優であった。

ルーマニアに行くのも三度目にもなると、言葉の分からない芝居の楽しみ方みたいなものが身についてくる。意味なんて始めから分からないからそこは諦め、俳優同士の台詞の間や動きに集中する。内容は分からなくても、声の質や音色、息の使い方で面白ければ夢中になれる。なんとなく去年よりも、いい演技をする俳優とそうでない俳優の見分けがつくようになった気がする。

今回、正直あまり面白い芝居が見れなかったのが悔しい。そしてその中でも最強最悪だったのが、クロアチアのナショナルシアターのミュージカルだった。
どうやら、夫が戦争に行ってしまい、愛する夫を想いながら帰りを待つという筋書きらしい。
昔は綺麗だったんだろうなという、30代後半の女優が、その愛する気持ちを一時間延々と歌ったり喋ったりする一人芝居だっだ。音楽は生バンドでよかったが、演奏者が皆男性で、ニヤニヤしながら女優の演技を見ている。 ああそうだ、その女優はRIKAKOに似ている。
RIKAKO似の彼女、まず歌が下手だった。ミュージカルなのに! そして、お色気ムンムン風で腰をくねらせ胸を揺らすが、一向にムラムラとはこない。私が女だからという理由だけではないはずだ。会場には不穏な空気が漂う。
途中服を脱ぎだしたが、なんとも中途半端で、いっそストリップでもやったほうが盛り上がったのではないだろうか。どんどん私は白け、彼女は一向にメゲず歌いつづけた。

途中演奏者達がよだれを垂らさんばかりに女優の周りを囲んだとき、彼女は興奮し、「イャハー!」と叫びながら踊り出した。のだが、それは舞台上で行うようなレベルではなく、普段踊ったことがない主婦がスポーツジムのサルサ教室に通い出し、初めて音楽にのせて体を動かしてみたような雰囲気だった。

一緒に見に行った衣装担当の村山さんは
「鳩屋のディナーショーよりヒドい」
と言っていた。全く同感である。

しかしながら、あの女優さんを責めることは出来ない。得手して俳優は自己中心的になりがちで、自分の演技について客観的に見るのは難しい。

正直に言おう、彼女にどうしてこれだけの嫌悪感が走るのか! 実は、私の中にも彼女がもっているちっぽけでつまらないプライドと同じ種類のものが宿っているからなのだ。どこか、これでよしとしているところがあるのだ! 恐ろしい! 恐ろしい! お・そ・ろ・し・い!

このタイミングで彼女の演技が見れてよかったのかもしれない。あの女優に対する観客の目を、いつまでも忘れないでいよう…。

三井穂高