11/06/24

傾城反魂香/ルーマニア

3度目の渡航、3回の動揺

年々ハードルが高くなっている気がする。
そして年々緊張感が増している気がする。
3度目のルーマニア渡航。いざ。


1都市目 シビウ
3年連続ということもあり、基本マップ無しでも歩けるようになり、
行き交う小学生の物珍しげな目線にもなれ、
声枯れもなく望んだ本番。
ゲネプロが終わって休む間もなく客入れ。
お客さんが入る事で劇場の空気が変わる変わる。
熱気が舞台裏まで伝わってくる。
何とも言えぬプレッシャー。
これがシビウ国際演劇際。
これがラドゥスタンカ劇場。
集中力と戦いながら舞台へ。
元信を姫が騙し、落とすところでかすかな反応。
観てる観てる!
しかし、その後舞台上に出ると、
どう受け止めていいのか分からない空気みたいなものが観客を包んでいる。
静か、、、大丈夫か?
おそらく出ているメンバー全員が最後まで反応を読み取れなかったのでは。
今度は姫がみやに自分の夫(元信)を貸し出すシーンでまた笑いが、、、
何故?
私変な事言った?
え、ここ感動的なシーンじゃなかった?
あれ?
動揺を隠しつつ(隠しきれていなかったかもしれないが)終演。

2都市目 トゥルダ
朝は甲高く鳴く鶏に起こされ、
猫のやウサギのいるレストランで食事をし、
親切な人々に恵まれた町。
ここでもハプニングが。
上演中
オープニングルパムが終わると拍手。
元信とみやのクライマックスで拍手。
熊野詣ルパムで拍手。
芝居中にこんなに観客が反応をみせるなんて日本ではありえない。
動揺のなか終演。


3都市目 ブカレスト
二年前に訪れたルーマニアの東京。
まず、排気ガスくささにブーイング。
トゥルダの鶏が恋しい。
しかし劇場の設備の良さには羨ましさを感じる。
天井のあく客席、趣のあるロビー、声のよく響く稽古場。
そして歴史を感じる建物。
ここでもハプニング。
上演中はシビウ同様静か、、、。
名古屋山三という浪人が刀をやむなく売りに出すシーンでのこと。
ゴーッ

冷房?
ゴーッザーッ
その音は次第に大きくなり、客席動揺。
どうやら連日ブカレストを襲っていたスコールが突然降り出した模様。
古い建物だけに劇場を打つ雨の音が半端なかったのであります。
袖に戻ってきた名古屋役の浦さん渋い顔。
動揺の中終演。

日本の戯曲を上演するも初めて、観るのも初めて。
初めて同士のぶつかり合い。
双方戸惑いながら、たどたどしくも、歩み寄れた気がします。
舞台ならではの味わい深い経験が出来た公演でした。

気性の違いや文化の違いはあれど、演劇はそれを乗り越えて理解しあえるものなんだなと。
四畳半だろうが、リアリズムだろうが、内側で起こすものは常に即興。
次なる課題も見え、充実した時間となりました。

植田麻里絵


11/06/23

傾城反魂香/ルーマニア

海外公演を終えて

ルーマニアにいる間、日本に帰りたかったように思う。
でもいざ帰って来てみると、日本がものすごくよそよそしくなっていた。
電車から見える街並みはちぐはぐで、街中はやけに人と建物であふれて汗臭い。

豊かに見えるのに、なんだか空っぽだなぁ。
私は本当にこんな国に帰りたかったんだろうか。
そう感じてちょっと驚いた。

間違いなく日本は豊かだ。
たとえどんな田舎の劇場・ホールであろうとも、置いてあるピアノはピカピカに輝いて、あわよくば調律されているだろう。
普段使わないトイレの電気がつかないことも(電球ごとないとか)、いまどき空調の無い練習室の、しかもその部屋の窓が開かない、なんてことはないはずだ。
そういう点では恵まれている。
ただ、そこで行われること、生まれることは豊かなのか。
そうでないことの方が多いんじゃないか。
この国の俳優なのに、そう思ってしまうことが情けなく、悔しい。

シビウのフェスティバルでは、残念ながら演劇は2作品しか見ることが出来なかった。
1つは、まぁ、どこかにおいておくとして(苦笑)もう1つはラドゥ・スタンカの十八番、「ファウスト」。
専用の劇場(埃だらけの工場跡みたいな所)もさることながら、幾度も上演されているはずなのにこの人気、熱気。すごい。
当日券を求める人、人、人。
一番印象に残ったのは、看板女優、メフィストフェレス役のオフィリア・ポピー。
彼女が喋った瞬間、第一声で鳥肌が立った。
言葉がわかんないのに鳥肌が立つって何だ。
この空間、すげぇパワーだ。
途中で客席を移動したりするのだが、観客は最後まで舞台の上に集中していた。

日本と比べると決して物質的に豊かでないこの国には、見えないものが豊かに、生きている。
観客が、つまり普通の人が、舞台を見る事を楽しみとしている。
演劇は日本より、すぐ側で息をしている気がする。

空っぽを感じた日本に、豊かさを与えるには何をすればいいんだろう。
演劇で何か出来るだろうか。
いや、何かしなくてはいけないんじゃないか。

自身の足りない演技を本当に情けなく思い、演劇で出来ることを改めて考える海外公演だった。

園田 恵

11/06/23

傾城反魂香/ルーマニア

電車の中の夢

ルーマニアツアー三年目。
いまだプログラムの見方が良くわからない。

シビウ4日目、なかなか面白い芝居に当たらない自分。
芝居を観たい。面白い芝居が観たい。
14:00からやっているこれは芝居だろうか。
「電車に乗って回る芝居で面白いらしいですよ。」と、通訳の志賀さん。
行くしかない。チケットを購入しに行こう。

お、この店のはずだ。
中に入ると美人のお姉さんと坊主の男性が楽しげに会話をしている。口説いているようにしか見えないが、どうやらお姉さんからチケットを買っているらしい。しかも、大量に。
待つこと5分。口説いているようにしか見えないがそうではないのだと我慢し、待つ。待つ。
さらに待つこと3分。流石に悪いと思ったのか、美人のお姉さん、男性を横目に私に声を掛けてくれた。

「チケッツ??」
『イエス、アイウォンツ、ディスチケット』
「ノン」
『ディスチケット』
「ノン」

もういい。頼まない。
チケットが無いまま現場へ急行。そこにはやはり芝居観たい症候群にかかった美智子さんと石原が。二人ともチケットは勿論ない。やはりここはごり押しだ。と、一同決心を固める。

回りにはチケットを持っている幸福な人々が無遠慮に笑顔を浮かべている。と、そこにさっきの坊主男が。10人程のルーマニア人を従えチケットを配布しているではないか。
お前のせいか、このやろうと思いつつ、美智子さんと一緒に輪の中に混じってみる。私にもそのチケットおくれ。

………。

ケチ坊主め。もういい、頼まん。
と、そこにあの美人なお姉さんが。すかさずコンタクトを試みるが、私達など見えないかのように仕事に取り掛かり話す暇を与えない。
美人め。私達は安田の手下なんだぞ。恐いんだぞ。アイ・アム・ジャパニーズ!!

最初は何とか入れるだろうと思っていた私たちだったが、本当に入れないかも知れないという現実に口数すら減ってくる。
するとそこに舞台となる列車が!!
女優さんがなにやら名前を呼び始める。するとお客が一人、また一人と列車の中へ。
私の名前を呼んでくれ。オグリエリコと言ってくれ。

嘘、うそだよね。入れてくれるよね。と、藁をも掴む思いで美人のお姉さんの元へ。
いつまでたってもこっちを見てさえくれない美人のお姉さん。ホントに無理そう、ホントに乗れなそう、ホントにシカトされそう。でも、観たい。観たいのよ。この芝居が。どうしても。観たくて体がゆがみそうさ。すると

「ワン。ジャストワン。」
『ひ、一人だけ!?』
先輩の美智子さんに『どうぞ』と言わなければ・・・

『じゃんけんしよう!!』
聞こえて来たのは美智子さんの声。
『は、はい!!』
どうしても、どうぞと言えなかった!!

『ジャン、ケン、ポン!!』
……私、勝った。

『すみません!!ホントすみません!!』
と、言いつつイソイソと列車の中へ。
走り出す列車。手を振る石原、そして、美智子さん。
ホントにごめんなさい。でも泣かない、私女の子だもん。

すると、なにやら陽気なバイオリンの音楽が。
すぐ隣には手を叩いて踊る役者さん達。
あぁ、ここはどこだろう、何だか楽しいなぁ。ルーマニアは楽しいなぁ。

と、辛い現実を忘れ、その後小一時間夢の世界へトリップ致しました。そして主役の俳優に惚れました。
ルーマニアは素敵な国でした。

小栗永里子