11/07/13

傾城反魂香/ルーマニア

「ファウスト」は楽しかった

ラドゥ・スタンカの「ファウスト」は非常に面白いらしい。あまつさえ国宝に指定されたとか言う噂も聞きました。芝居自体が国宝になるなんていったいなんなのだろうと期待を胸に、山の手事情社の本番がおわった翌日、観にいきました。

舞台のセットといい演出といい、お客さんを飽きさせない仕掛けがもりだくさんで常に目を惹きます。特に自分が大好きになったのはファウスト役の方です。もちろん言葉はわかりませんでしたが、どんな状態にあるのか伝わるし、なんといってもメフィストと会話しながら狂気が変質していく姿に色気を感じました。これほど面白い「ファウスト」は観たことがありません。

当日券だったため、自分に用意された席は役者の通り路。「大勢の役者が走って通り抜けるので気をつけて。はみださないように。」というようなことを言われ、しばらくすると自分の横に人が来た気配を感じました。
役者が待機してるのか? だったら見ないようにしよう。いや、しかし、こんな前のほうまで来て待機というのもおかしい…
と思って横をみると、金髪の女性。
確か彼女はラドゥ・スタンカの芝居には必ず受付にいたスタッフの人。
本番中のさなかなぜこんなところに。まさか役者として出演するわけじゃあるまいに。
金髪の彼女は居所をそのままに、わずかばかり体をゆすって客席を見渡しています。そのうえ、照明の目の前に立っています。肩から上が光にあたってまるで後光がさしたかのように光っています。

自分は舞台のどこかに影はないかつい探してしまいます。見たところ彼女の頭の影は舞台上にはないように思われます。
自分を奮いたたせ芝居に集中しようとしているうちに、彼女の気配が消えました。その数秒後、顔を白く塗りたくった大勢の小悪魔役が自分の横を全速力で駆け抜けていきました。

この「ファウスト」にはお客さんが席を移動して全員立ち見のシーンがあります。ハデだったり、グロかったり、暗黒サーカスみたいで見応えはありました。そのサーカスが終わるとまた元の席に戻ります。
自分の横に、例の、金髪の女性スタッフが出現しました。
油断していました。
自分は彼女をチラっと見てから通路の奥を見ました。今回は控えている役者はおりません。いったいどのくらいここに立っているつもりなのだろうか。照明の目の前に立っていて頭は熱くないのだろうか。
わさわさとした気配を感じ彼女をみると、客席の前のほうの真ん中くらいをめざして、手招きをしたり、口に手をあてて声をださずに叫ぶ動作をおこなっています。どうしても呼びよせたい人物がいるようです。
自分の真横でわさわさ、わさわさ。激しく手招きをした掌から微風を感じます。口に手をあて声をださずにいるのに心の声がきこえてくるようです。

…これを気にしないでいられようか。悶々としながら舞台を観、たまに彼女を見、7〜8分もしたころでしょうか、彼女は途中であきらめて去っていきました。

次に観る機会があったならば、必ず前売券を入手して端の席には座らないようにしようと思いました。

石原石子

11/07/12

傾城反魂香/ルーマニア

再会!?

ルーマニア公演、今年もたくさんの方が劇場に足を運んでくれました。

この会場に来てくれた方々とは公演後は二度と会えないかもしれないと思い、観に来てくれた方々一人一人に「ムルツメスク!!」(ルーマニア語で「ありがとう」)とお礼を言いながら握手をしたくてウズウズしていました。
残念ながらそれは難しいので、カーテンコールで客席の一人一人の顔を目に焼き付けようとしていました。

二都市目に訪れたトゥルダ公演の時は、カーテンコールがとても長かったので、観客一人一人の表情がとてもよく見えました。
皆さんとてもあたたかい笑顔であたたかい拍手をしてくれています。家族で来てくれている方も多く、子供もたくさんいます。
更に見渡すとサンタクロース似の大きな体のおじ様が一瞬目にとまり、
「どこかで会ったような・・・」
と思いましたが、あまり気にせず、
この大勢の方々と、もう一度会える事はそうないだろうと、とても寂しくなりながらカーテンコールを終えました。

その後、劇場側が主催してくれたパーティ会場に行くと、先ほどカーテンコールで目にとまったサンタクロース似のおじ様がいます。
なんでもトゥルダの俳優とのこと。
この機会にルーマニアの俳優がどんな訓練しているのか聞きたいと思い、通訳の志賀さんと共に彼に話かけました。訓練の事をたずねると
「俺の訓練は食うことだけさ。はっはっは〜(豪快な笑い)」
聞く人を間違えたようです。
するとサンタクロースおじ様の奥様だという可愛らしい笑顔の女性が
「私も話したかったのよ!」
と話しかけてくれました。

話を聞くと、彼女は日本がとても好きで、さらに彼女のお父様も黒澤映画が大好きで彼女の名前を日本の[椿]から取って[カメリア]としたそうです。
カメリアさんは、日本の震災の状況をとても心配していましたが、
「日本人のエネルギッシュな素晴らしい舞台が見られて本当に良かった。」
と少し安心してくれたようです。
更に聞くと、
2年前に山の手が初めてルーマニアツアーを行なったときにブルチャという都市で上演した『タイタス・アンドロニカス』も観ているとのことでした。
ご主人も一緒に見ているとのこと。

驚きと感動でウルウルしながら、
「トゥルダとブルチャは遠いのに、わざわざ行ったの?」
とたずねると、
ルーマニアの俳優は劇場契約で活動しているので、一つの都市で何年か活動すると別の都市に移るそうで、私たちが2年前ブルチャ公演に訪れた時はカメリアさん夫婦はブルチャの俳優だったとのこと。
「ブルチャで『タイタス・アンドロニカス』を観て感動して心に残っていたの! 今年トゥルダの俳優になったら、また山の手と出会えた、とても嬉しいわ。」
と目をキラキラさせて興奮して話してくれました。

そう言われてみれば・・・
2年前のブルチャの客席に彼等を見たような!?
あの時も二度とここで公演することはないだろうと思い、あたたかく迎えてくれた観客の姿を目に焼き付けておこうと思っていました。
サンタクロース似の大きい彼の姿はめちゃくちゃ目立っていたし、隣にいたカメリアさんの笑顔も!!
フラッシュバックして泣きそうになりながら、
お互い「運命運命!!」とウルウルしながら、再会を誓って別れました。

少しずつですが、地球の反対側の人達の心にも確実に山の手事情社の作品が刻み込まれてきているんだと確信しました。
もっともっとたくさんの人の心に響く作品を作っていきたいと思います。

これからも精進して、日本の皆さんにも楽しんでいただける舞台にしていきますので期待していて下さいね。

暑さが更に厳しくなりますが、夏バテにお気をつけてください。
12月に劇場でお会いできる事を楽しみにしております。

山口 笑美

11/07/11

傾城反魂香/ルーマニア

異文化

ルーマニアツアー最後の地、ブカレスト。
都会である。
道が広い、ビルが建ち並んで、見慣れたチェーン店が点在する。ここは東京と変わらんぞと思って、帰国して、新宿に行ってびびった。
都会がいいならルーマニアくんだりまで行く必要まったくなし。久しぶりに足を踏み入れた新宿は「ニューロマンサー」さながらのサイバー都市でした。
このあからさまな風俗街と、呆れるぐらいに溢れかえる人と、自由極まりない個性豊かなファッションの人たちが群れているこの街は、もし俺が外国の田舎者で初めてみたらかなりびびる。
しかし、海を挟んでどえらく離れたこの2都市もどんどん似た風景になっていくに違いない。
それをグローバリゼーションと言うのだろう。
そしてそれに歯止めをかけるのが文化なのだよ。
と小難しいことをほんの少し考えた。
近松門左衛門という、ルーマニア人にとっては全く馴染みのない、まさに異文化、ローカルの極みの作家の作品を持っていきましたが、
はたと思う。
近松門左衛門って日本で上演しても、現時点では日本人にとっては全く馴染みのない、まさに異文化、いまやローカルの極みなのでは。
これは国内でありながら、外国人に見せるようなものかもしれない。
挑戦のしがいがあるってものだ。

閑話休題。
帰りの飛行機でおばさまがたに四方を固められる。
日本人のツアーご一行様である。
隣りの席には80歳ぐらいのおばあちゃん。
10時間以上もかかるこれからのフライトを辛抱出来るのか? と心配になる。
中央の3席は左はじに俺、真ん中にくだんのおばあちゃん、右はじにツアー客のおばさまの布陣。
この右はじのおばさまが同じツアー客なのにも関わらず、おばあちゃんに微妙に不親切。
なので、少しだけ親切にする。
荷物を上の棚にあげる。(これはまあ当然だろう。)
座席についているモニターの使い方を教える。(フライトは長いしね。)
機内食のアルミラップをはがす。(固くて開かないよ。熱いし。)
というわけで少し会話。
早稲田大学の講堂で木下順二のお芝居を見たことがあって、
ジロドゥが好き。
しかも「傾城」の漢字が読めて、意味もわかっていた。
超レア。
とても教養がある。
こういう人ばかりなら、古典のテキストを上演しても、暖かく迎え入れてくれるだろう。
だがしかし、
今、向かっている街はそんな甘いことは許さない。
古典が教養だった時代は終わっているのである。
さあ、次は東京公演だ。

斉木和洋