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カルチャーポケット安田雅弘

【市民劇をつくる2】市民劇の掟/2002.7-8

【市民劇をつくる2】市民劇の掟 2002.7-8(表紙)【市民劇をつくる2】市民劇の掟 2002.7-8

 市民劇はとても楽しい、充実した作業です。けれども、そのためには環境をととのえる必要があり、私の場合、まず参加希望者全員と面談をして、皆さんのモチベーションを確認することから始めます。その際、いくつかの約束をする。あたり前のことばかりですが、参加する方すべてが、集団でものを作ることに慣れているわけではありません。はじめに取り決めをしておくわけです。

 まず、出欠の申告をすること、時間を守ること。えっ、そんなこと? と思うかもしれませんが、実際これがなかなか守られない。18:00集合とは、18:00に来ることではありません。18:00に練習を開始できるようにしておくことです。演劇の場合、来るべき人が、一人でも欠けるとシーンの練習が始まりません。へたをすると、まるで稽古にならない。もちろん急病で練習に出られない、電車が止まって遅刻するといったことはあるでしょう。ですが、事前に連絡をもらえば、対応はできます。遅刻も、5分なのか、1時間なのかで対応が変わります。集団を大切に考えているのなら連絡を入れる。尊重してない集団にあなたが尊重されることはないのです。

 次にあいさつをすること。始めに「おはようございます」、終りに「お疲れさまでした」。はずかしいのか、慣れていないのか、放っておくと、あいさつのない現場になります。けじめのないところにすぐれた表現は出てきません。緊張感がなくなりますからね。ところで、「おはようございます」って何より「はやい」か知ってました? 正解は「日の出」。むかしは農作業前に交わした言葉のようです。

 運動のできる服装をすること。演技は人前で心を開く行為です。身体がこわばっていたのでは心が開くはずもありません。つまり身体の余計な力を抜くことが重要。現代人は身体を放置しがちなので、稽古では、身体をケアするさまざまな方法をお伝えします。柔軟運動も、発声練習も、ピチピチのジーパンでは効果が半減。ついでに、着替えの際、携帯のスイッチを切ること。稽古中に鳴ると皆さんの集中が途切れます。

 メモを取ること。強制はしません。ただ未経験の方が三ヵ月程度の練習で本番の舞台に立つのです。ピアノで考えた場合、それがとんでもないことは、お分かりでしょう。ピアノほどではないにせよ、演技は特殊な技術です。はじめはわからないことだらけでしょうから、必要なことはどんどんメモをとる。演技力をつけるのに、稽古場以外の時間でやるべきことはたくさんあります。

 お芝居をたくさん見ること。大阪や東京は演劇を見るということでは世界でも屈指の都市です。お金の工面さえつけば(そこが大問題ではありますが…)、多岐に渡る別々の舞台を毎日楽しむことだってできます。文楽、歌舞伎、能・狂言といった伝統芸能、ミュージカルなどの商業演劇、小劇場、ダンス…それに何より東京人の私がうらやましいのは、吉本。いろいろなお芝居に触れるのは上達への近道ですし、舞台がさらに好きになります。

 恋愛を目的にしないこと。これも結構むずかしい問題です。一ヶ所にさまざまな男女が集まり出会うわけですから、恋愛するなというのは無茶なことですが、禁止しておかないと、集団全体の目標がぶれます。何のために集まっているのかわからなくなる。公然とした交際は、公演終了まで御法度。もっとも市民劇をきっかけに結婚したカップルが数多いのも、また事実です。

※ カルチャーポケット 2002年7-8月号 掲載

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【カルチャーポケット】
1999年8月から約5年半の間、大阪市文化振興事業実行委員会より発行されたフリーペーパー。通称c/p。

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