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コラム
カルチャーポケット安田雅弘
市民劇の本当の面白さ、楽しさを味わうには、「同じアホなら踊らにゃそん、損」ではありませんが、出演者、もしくはスタッフとして参加するのが一番でしょう。
私が今までかかわってきた市民劇では、大体、1000人から2000人近いお客さまが、わざわざ入場料を払って会場に足を運んでくださいました。たとえば人口15万人の自治体であれば、1500人の観客というのは、1パーセントに当たるわけで、東京であれば、10万人あまりを集める大イベントに匹敵するわけです。参加された方々は、まぎれもなく、その地域のヒーローでありヒロインになります。新聞は一面を飾りますし、テレビやラジオのインタビューも来る。市政だよりといったような、自治体の広報誌にも大々的に取り上げられ、さらには職場や学校、近所の家にも話題は波及し、ちょっとした芸能人気分が味わえます。
けれども、そうした外向きの楽しみ以上に、実は、市民劇を作り上げる集団そのものに、さらに大きな魅力があるのです。
それは、コミュニティーを手に入れることができる、ということ。中学生から50代くらいの人たちが「お芝居を作る」というささやかな目的のために集まります。はじめはよそよそしくても、毎日のように稽古をしていると次第にそれは仲間になり、時として家族以上に親しい関係になります。
ちょっと考えてみて下さい。ふだん私たちはあまり違った世代の人たちと親しく話しをしませんよね。現代はヨコ社会。深刻な悩みを年齢の違った人とは共有しにくい社会に住んでいるわけです。ところが、この市民劇コミュニティーでは様子が多少違ってきます。この集団は、「お芝居を作る」という共通の目的を持っていますから、よいものを作るために参加者が自分だけでなく、他のメンバーのことも真剣に考えざるを得なくなります。主役の顔色がすぐれなければ、それはお芝居のクオリティに直結します。共演者が休んでしまったら稽古になりません。まして無断で休んだりしたら、信頼関係はゼロになります。出番の多い「いい役」につくには、演技力はむろんのこと、集団の中で信頼されていなければなりません。これはプロの劇団でもまったく同じことです。
よいものを作りたいという気持ちは想像以上のエネルギーを引き出すもので、参加者は連日熱心に稽古や準備にまい進します。さながら高校球児です。このせちがらい世の中で、50人からの集団が無償で優れた表現を求める姿は奇跡的だと私はいつも感心します。
もちろん手をこまねいていてもコミュニティーの信頼関係が高まるわけではありません。それなりの努力は必要です。前回お話した、参加する上でのルールの徹底もありますが、もう少し積極的な方法もあります。たとえば、参加メンバー向けのミニコミ誌づくり。参加者の自己紹介特集から始まって、稽古の進捗状況や、上演作品の研究、目に触れにくいスタッフの仕事紹介などが記事になります。
また、パーティ。花火パーティ、カレーパーティ、とさまざまに銘打ってはメンバーの親睦がはかられます。ふだんあまり接する機会のない職業についている方と知り合えるのも大きな楽しみです。自衛隊の戦闘機を整備しているメンバーの話は面白かった。「戦闘機のビスは一本2000円で、一機につき一万本使われているから、ビス代だけで2千万円です」。これは全員の前で話してもらいました。こうした努力は、参加メンバーからの提案がきっかけになっています。こうした活気がコミュニティーをより確かなものにしていくのです。
※ カルチャーポケット 2002年9-10月号 掲載
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【カルチャーポケット】
1999年8月から約5年半の間、大阪市文化振興事業実行委員会より発行されたフリーペーパー。通称c/p。