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カルチャーポケット安田雅弘

【市民劇をつくる6】市民劇団の効用/2003.3-4

【市民劇をつくる6】市民劇の効用 2003.3-4(表紙)【市民劇をつくる6】市民劇の効用 2003.3-4

 ワークショップのおわりに、参加者の皆さんから感想をうかがうと、かならず出る質問があります。「演劇が続けたいのですが、やはり東京に行かなければだめでしょうか?」

 昨年の大阪市でも、その後うかがった香川県、大分県でも同じような質問をぶつけられました。「いまの状態では、東京に出てくるしかないでしょうね」残念ながら、これが答えです。

 しかし、これでいいわけがありません。

 地域の人が気軽に芝居をしたいと思ったときに、適当な場所がないのは間違っている。そのように感じるべきです。演劇のつくり方を知っている人など、現状ではほとんどいません。たしかに、数多く劇団はあるでしょうが、そこに所属するのは、かなりの覚悟を必要とします。また、地域でプロになりたいと考える人が出たときに、大阪市の人には大阪市でプロになれる機会が用意されるべきです。

 ためしに、「大阪市立劇団」というようなものを考えてみましょうか。

 予算的にムリだとか、市民に理解がないとか言うまえに、そうしたものがあると一体どのような効用があるのかイメージしてみましょう。拠点劇場があり、所属する専属の俳優やスタッフがいます。市からギャラの支払われるプロの劇団です。年間に何本かの新作公演と旧作の再演がおこなわれます。市内にある施設で巡回的に公演をおこないます。歩いて15分くらいの会場で公演があれば、手軽に見に行くことができます。料金も安く、500円とか、1,000円に設定します。

 演劇を知りたいという人たちのために、頻繁にワークショップをおこないます。一般市民の方を対象にしてもいいでしょうし、小中学校、高校、あるいは市内にある企業の人たちを対象にしてもいいでしょう。プロをめざす人にはよりハイレベルの内容を用意します。

 年に一、二回、市民参加による公演をおこないます。それも劇団のメンバーが面倒をみます。楽しい体験ができれば、理解は広がり、深まるはずです。また、現在あちこちで催されているアマチュア劇団のフェスティバルも開いていくべきでしょう。

 さらに、その劇場の企画でシンポジウムやパネルディスカッションをおこないます。テーマは、表現に関わることでも、市民生活に関わるものでもかまいません。たとえば、「リストラ」が市の大きな問題になっているのであれば、それを主題にした公演をつくるといった形で、そうした活動を現場にフィードバックします。このカルチャー・ポケットのような、演劇のコミュニケーション誌をつくることも、一般の理解を助ける役割を果たすでしょう。

 他のプロ劇団も呼びます。地域を拠点にした劇団があると、招聘されたカンパニーも油断はできません。カンパニーとはそういうものです。劇場文化の育っていない地域で公演をする場合は、どうしても甘い内容になります。悪い言い方をすれば、なめてしまうのです。

 こうしたこと進めようとすると、決まって「一体誰がやるんだ」という話が出てきます。

 コンペにすべきでしょう。市民の前で今後三年なり五年なりの活動計画を説明し、投票してもらってもいいですし、市が任命して、市民にリコールする権利があれば、いい加減なことはできないはずです。

 おわかりのように、市民劇団は舞台芸術を通じて、一般市民の方にサービスを提供する団体なのです。サービス内容はチェックを受けるべきです。たとえるなら、図書館と同じようなものです。ふだんあまり図書館を利用しない人でも、地域から図書館がなくなることは、地域文化にとってマイナスだと感じると思います。

 地域劇団もそうしたものです。図書館のない地域に図書館の必要を説くことは困難を伴いますが、一旦そのサービスに触れることができれば、なくてはならないものだと納得してもらえるはずです。現状、民間レベルでの実現はムリですし、効用の大きさを考えると、行政が取りくむべき大きな主題だと思えてなりません。

※ カルチャーポケット 2003年3-4月号 掲載

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【カルチャーポケット】
1999年8月から約5年半の間、大阪市文化振興事業実行委員会より発行されたフリーペーパー。通称c/p。

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