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安田雅弘演劇の正しい作り方

【演劇の正しい作り方⑭】柔軟ラスト(体育としての演劇6)実演編その3/96年8月号

 演劇の正しい作り方14/96年8月号

 分厚いコートで撮影に立ち会っていた僕が今はTシャツの稽古場であえいでいる。
 半年。
 「たかが柔軟に」と言うなかれ。
 かかってしまうのだ。

 何と言っても、身体が俳優にとって第一の道具である。
 伝統工芸職人の工房がテレビなどで紹介されると、あきれるほど似たような道具が並んでいたりする。カンナ一つとっても使用目的に応じてズラリとある。もちろん僕らにその違いはわからない。手入れの方法や時期も道具ごとに違い、その状態を把握し意のままに操ってこそ職人は見事な作品を仕上げることができるのだろう。
 柔軟運動そのものは道具ではない。
 それを通じて伸ばしたり確認している筋肉や身体の部分が微妙に違っているだけだ。つまり、この運動は俳優にとって一番大切な道具を手入れする手段なのだ。
 僕らにカンナの見分けがつかないように、素人さんに筋肉の違いがわからないのは当然として、専門家に近づこうとするならば少しずつでも筋肉の状態を確かめたり、ほぐしたりする方法を身につけておきたいものだ。
 重複を承知で柔軟運動のコツを列挙しておこう。

 ◎伸ばす場所を意識してみる。
 ◎痛い時には息を吐く。
 ◎慣れるまでは人を押さない。
 ◎できるだけ毎日やる。

 経験から言うと、初心者ほどいい加減にやりがちである。
 「自分の身体なのに…」
 とこっちがハラハラするほど、大切な道具を粗略に扱っていることもある。せっかくいいものを持っていたとして、錆びたり刃こぼれしていては生かされない。
 そういう趣旨なので、極力ていねいに紹介したいと思っている。
 半年かかった。
 ラストである。

仰向けになって…

■首をのばす
☆両手で後頭部をかかえ、つまさきの方を見るように頭を持ち上げる。
☆両腕の力を加減しながら、そのまま頭を左右に倒す。
☆同じく両腕の力を加減して、頭を左右にひねる。
[check!]首に力を入れずに極力腕の力で頭をかかえるようにする。のびているのを意識しながら息を吸う。力を抜きながら息を吐く。ゆっくりとでいいから、できるだけ大きくまげたりひねったりする。

■ももをのばす
☆左ひざをまげて左足がお尻の下に来るようにする。右ひざを直角にまげ、右手で右ひざを押しながら股関節を開くようにする。
[check!]背中が床から離れないように気をつける。左右おこなう。

■ももの脇をのばす
☆両ひざをたてる。
☆左足を右ひざに乗せる。
☆左足と右ももでできた三角形に左腕をのばし入れ、右ももの右側に右腕をのばす。
☆右ひざの前で両手を組み、右ひざを体の方に引き寄せると左ももの脇がのびる。
[check!]左足を右ひざよりやや下、足の付け根に近い位置にするとさらにきく。左右おこなう。

■ももの裏をのばす
☆左ひざをまげ、胸につけるようにする。
☆ひざを胸から離さないようにしながら、右手で左足首をつかんで左足をのばす。
[check!]右足が床から離れないようにする。足をのばした時にひざと胸の距離をできるだけ短くするようこころがける。左右おこなう。

座って…

■足首からひざをひねる
☆左足はのばし、右ひざをまげて右足を右腕で抱える。
☆右足首を直角にまげて(フレックスにして)右手で右足の先を上から包むようにおさえる。
☆左手で右足のかかとを下から押し上げつつ、右手は押し下げると、右ひざがひねられる。
[check!]普通ひざに痛みが走る。痛くない場合はやり方が間違っていることが多く、ひねる方の足をフレックスにしていないことが多い。左右おこなう。

■手首をのばす
☆背筋をのばしてあぐらをかく。両腕をのばし、指先が足の付け根の方を向くように手の甲を床につけ、軽く体重をかける。
☆同様に、指先が足の付け根の方を向くように手のひらを床につけ、軽く体重をかける。
[check!]ひじをまげないようにする。

■Y字バランス[ももの内側・裏~股関節]
☆背筋をのばして右足をのばし、左ひざをまげて左足を両腕でかかえる。
☆左手で左足かかとを持ち、右手でひざを押しながら左足を体の正面にのばす。
☆右腕でバランスを取りつつ、左足をのばしたまま体の左側に移動させ、しばらく止める。
[check!]必ず上体が腰に乗っていること。左右の腕は180度開くようにする。右足が床から離れないようにする。左右おこなう。

■肩・腕をのばす
☆右腕をのばし、それを左腕でかかえるようにし、体を右側へ、左腕は左側にねじる。
[check!]あごは右肩にのせるようにする。左腕を肩の付け根に近付けるとさらにきく。左右おこなう。
☆左ひじをまげ、左手を背中にまわし、右手で左ひじを下に押す。
[check!]左手の中指が背骨にそって下におりるようにする。左右おこなう。

「演劇ぶっく」誌 1996年8月号 掲載

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