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小笠原くみこ演出ノート

三人姉妹/2019.2

 本日は、まだまだお寒いなか、ご来場いただき誠にありがとうございます。

 『三人姉妹』は、姉妹たちがかつて暮らした「モスクワ」に戻ることを夢見ている、というところから始まります。そして「モスクワ」は徐々に、それぞれが思い描く“モスクワ”に移り変わり、その“モスクワ”を求めてさまよい、打ち砕かれる、そういうお話です。

 “モスクワ”―――どうやって生きていきたいのか、その希望や欲望。

 このテーマだけであればチェーホフ作品でなくても描けると思います。登場人物たちには“モスクワ”が手に入らないという設定ではありますが、もし手に入っていたら? おそらく、手に入った“モスクワ”に満たされない何かを感じて、新たな“モスクワ”を求め出すのでは、と想像できます。
 切望し手にいれることができた“モスクワ”は、その瞬間から“モスクワ”ではなくなってしまう矛盾があり、 “モスクワ”には永遠に到着しないということを、チェーホフは自身の人生から感じていたのではないでしょうか。同時に、それでも人は“モスクワ”を求めてしまう性があることを、愛すべき滑稽さと、笑っていたのではないかと思います。

 今回の出演者は、当パンフレット上記にあるように、プロの俳優ではなく一般的な生活を送っているメンバーです。月曜から金曜は仕事や家庭があり、週末だけ演劇に費やす時間を3年間重ねてきました。プロジェクトが始まった当初は、演劇とどういう距離で向き合えばいいのか不安や迷いがあったメンバーですが、今の彼らにとっては、間違いなくこの公演が“モスクワ”だと思うのです。

構成・演出 小笠原くみこ

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