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小笠原くみこ演出ノート

気で病む男/2022.1

主人公のアルガンは、自分を病気と信じ、医者と薬をあがめている。また、家族を自分の思い通りに動かそうとしており、いい迷惑である。アルガンは薬や医者を信じているが、それを「思想」とか「教育」とか「仕事」とか、いわばその人の人生を司ってきた根幹のようなモノと言いかえれば、アルガンほどではないにしろ、頑な部分は誰でも持ち合わせているんだろう。

私事で恐縮だが、この作品をやってみようと思い至った1つの要因は、自分の父親に対する、ある種の非難めいた気持ちからであった。まさにアルガンのように、信じていること以外への興味のなさや、浅く狭い情報だけで判断していく姿に、こんな風に年をとりたくない、なぜそうなってしまうのだろうと。

一方で、気づけば自分も中年になり、それなりに頑なな部分はあって、若い頃に比べて自信を持って受け答えする場面も増えた。自分の人生の中で培ってきたことが元となり、「正しい」と思うことを導き出しているんだろう。そして守りに入り、新しいモノを受け入れがたくなっている。これがおそらくアルガン的な要素と言えるのだろうと思うと、あんなに避けたいと思っていた事象が自分の中にも存在している。

モリエールは、「喜劇」としてこの作品を仕上げているが、人生をある程度生きた人間にとって痛いところをついていて、案外笑えない!

きっと、中年ばかりの「ほうろう社プロジェクト」のメンバーも、私と似た思いを抱きながら創作に励んだに違いない。何しろ、Zoomで創作しようと言い出したら、最初はすごく不満そうで、シブシブ稽古していましたもの。でも、仕上がってみるとみんなうれしそうだったのが、何よりでした。

構成・演出 小笠原くみこ

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