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名越 未央川村 岳演出ノート

ほんのりレモン風味/2022.2

若くて元気と体力はある。何よりも素直。ニュージェネレーションのメンバーに抱いた最初の印象だった。つまり健康そのもの。「じゃあ演劇なんかやらなくてもいいじゃん、しんどいよ。役者ってどこか精神的に不健康なヤツが向いてるんだよ。」なんて思っていた。口には出さないけど。

演劇に足を踏み入れれば自分は何か変われるかも。そう思っている人は多いと思う。演劇を始めれば人や作品との出会いがあり、新たな刺激があり、自分の未知の才能が目覚めるのでは、と。そんな簡単なもんじゃない、保証する。私がそうだったから。

大学へ入学した時、最初の4月でもう辞めようと思った。薄々感じていたが勉強したい事が無かったからだ。辞めなかったのは親を悲しませたくなかったから。1年の冬、雪が積もったキャンパスを虚な目で彷徨っていたのを覚えている。ただ身体の奥に「暴れたい欲求」が蠢いている事は感じていた。程なくして演劇に出会い、始まってしまった。「大いなる勘違い」が。台本があれば何とかなる。んな訳なかった。身体を動かすことや大きな声を出すのは苦じゃなかった。しんどかったのは「自分を掘り下げる」こと。普段触れることの無い自分を引っ張り出し、新鮮な表現に昇華していく。「なんとなくの表現」じゃ駄目なんだ。「これしかない表現」のつもりでやらないと。

虚な目が生き生きとしていくのに反して大学は疎かになり、結局卒業するのに6年かかってしまった。

もし演劇と出会えなかったら何をしていたのだろうか。いや、考えても詮無い事。全肯定していくしかない。

今回の作品のテーマは「青春」です。一般的にイメージされる「甘酸っぱい青春」ではなく、「辛くて苦くてツーンとする青春」です。「演劇を利用して青春を取り戻そうとしている」不貞な奴らをどうか温かい目で見守って下さい。みんな頑張れ、と言いたい。口には出さないけど。

本日はご来場ありがとうございます。

構成・演出 川村 岳

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今回、共同演出を務めている川村 岳の口癖は「わかるよ」と「わかるでしょ」で、話しながら「うんうん」と自分自身の言葉にまでよく相槌を打っている。『ほんのりレモン風味』の稽古が佳境に入り毎日隣でそれを聞くようになって改めて、彼は基本的に人と人とは理解し合えるというスタンスなのだと感じた瞬間、何かが繋がったような気がした。

昨年5月から、ニュージェネレーション達と稽古を重ねてきた。
当初から、「自分の気持ちをわかってほしい」というアピールが強い人が多くて、妙に幼いなぁと感じていた。他人の気持ちには鈍感なくせに、自分のことだけはわかってほしい、でもわかってもらうために大した努力はしない。なんなんだよと憤りを感じつつも、わたしにはないその素直さが羨ましくもあり、表現者としてなにか大きなエネルギーの源にもなりそうでワクワクもしていた。そんな期待はよそに、やっぱりわかり合えないことに耐えられず、途中でやめてしまった人もいる。

私の心の片隅には「話せばわかるは大嘘」という言葉がいつも転がっている。
自分が発した言葉は、発した瞬間に自分のものではなくなって、相手や周りの人がどう受け止めるかはその人次第、それを自分ではどうすることもできない。これは真理だと思っている。それでも私は、ああ言えばよかったこう言えばよかったとクヨクヨ考えることをやめられないし、伝えること理解してもらうことをどうしても諦めきれない。だから演劇をやっているのだとも思う。私はいつも、舞台上と客席との間に共感を求めている。思わぬ形で、思わぬ瞬間に共感がある舞台は、観る人に安堵を与え勇気を呼び起こすと信じている。

「わかってほしい」が止まらないニュージェネレーション達はそれぞれに、川村の「わかるよ」「わかるでしょ」に演劇的に支えられ追いつめられ、そして恐らく、私が往生際悪く追い求める「舞台上の俳優と客席が繋がる瞬間を見たい」という妄想にも掻き立てられ、本番へと突き進んできた。
人は簡単にはわかり合えないけれど、こうして決死の覚悟で舞台へ上がる俳優たちの姿からどんなことを感じるのか、ゆっくり味わっていただけたら幸いです。
本日はご来場くださり誠にありがとうございます。

構成・演出 名越未央

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