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安田雅弘演出ノート

YAMANOTE ROMEO and JULIET/2008.10

安田雅弘(2008.10)

『印象 ロミオとジュリエット』について。

 三本目を作る際に私が注目したのはおもに二つの点である。
 原作を読んで思うのは、ロミオとジュリエットという二人の登場人物以外は、結果的には全員、二人の恋愛を妨害する行動を取ってしまう。二人の死後、生き残った全員が挫折感を味わう構造になっている。ロミオの恋愛を妨げるものは「友情」である。またジュリエットの場合は「家族愛」が妨害する。ロレンス神父は「善意」から二人を応援するが、その「善意」の背後には、ヴェローナから無血のうちに争いを除けるのではないかという「政治的野心」があったと考えることもできる。それが一つ目。
 恋愛も生命と同じように、誕生と同時に消滅が宿命づけられている。恋愛は人間より寿命が短い。私たちは恋愛が消滅してもなお、日常を送るわけだが、ロミオとジュリエットは違った。二人の恋愛の消滅は、二人の死と同時に訪れる。この作品が今なお輝きを失わないのは、そうした理由からだろう。さまざまな物語や現実の中で、累々たる恋愛の死骸を目の前にしながら、それでいて私たちはおそらく死ぬまで「恋愛」することをやめられない。二つ目に私が強く感じたのはそのエネルギーに対する感嘆であり喜悦である。

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「YAMANOTE ROMEO and JULIET」は、「ロミオとジュリエット」をもとにした三本立て公演です。
[一本目]『抄本 ロミオとジュリエット』
[二本目]『妄想 ロミオとジュリエット』
[三本目]『印象 ロミオとジュリエット』

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