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パリワークショップリポート安田雅弘

パリ/ワークショップ 初日

受講生は8名。男女4名ずつ。国立コンセルヴァトワールの卒業生。現役学生でなく、卒業後2、3年のプロで活躍中の面々。依頼のあったマスタークラスのワークショップとはそういう意味だったらしい。彼らが超エリートであることは前回書いたが、卒業後3年間は、コンセルヴァトワール卒業生だけが所属できるプロダクションから仕事を斡旋してもらえる。演劇で食べて行くことを国家が保障する。文化に力を入れるというのは、そこまですることなのだ。

企画者ジャンフランソワ氏は
「安田さん、受講生が減ってしまって申し訳ない」と、詫びるがとんでもない。
当初20人と言われていた。が、20人も来た日にゃ面倒見切れない。ルーマニアで懲りてます。少ない方がいい。もっと減りませんかね。

コンセルヴァトワールのカリキュラムは伝統的な方法と内容に偏りすぎてはいないか。価値観が多様化したこの時代、今までのやり方にこだわるあまり、フランス演劇は相対的にパワーダウンしているのではないか。という危惧があるようで、演劇教育では定評のあるパリ第8大学と組んで、ヒヨっ子のプロ俳優たちに世界にはいろいろな演劇があり、つまり芝居のとらえ方があり、同時にさまざまな訓練方法があるのだ、ということを伝えようという趣旨のようだ。

毎日6時間。初日の今日は13:00開始。日によって11:00開始の日もある。まずは1階の会議室でコーヒーを飲みながらガイダンス。受講生に自己紹介してもらう。通訳はドォミニックさんという女性。三島由紀夫の翻訳もされた経験豊富な方。しゃべりは日本人と変わらない。《四畳半》は、なじみのない方法論なので劇団公演の映像をダイジェストを見てもらう。無言。まずい、軽く挑発するつもりだったのが、薬が効きすぎてびびってしまった。ほぐすはずが逆効果。それにしても受講生の数を上回るオブザーバー。大学の研究者や評論家たちというが、ビデオカメラですべて記録し、さかんにメモを取っている。東洋の一風変わった演劇手法の秘密を(そんなものないのだが)一片たりとももらすまいという気迫。受講生たちよりテンション高いぞ。妙な空気だ。

2階のアトリエに移動して、いよいよ実技。まず掃除。第七劇場主宰の演出家・鳴海康平氏が雑巾がけの手本を示してくれる。鳴海くんは現在パリに留学中。連絡を取ったらぜひ見学したいとのことだったので、いやいっそ手伝ってとお願いした。受講生たちは雑巾がけに異国情緒を感じるらしく、興味深げ。時々転がりながら楽しんでいる。
《鬼ごっこ》で身体をほぐしたのちに《マッサージ》。「こんなのやったことある?」と、男優エリの肩甲骨の裏側に手を入れると、エヴァが真っ青になり泣きだした。信じられない光景のようだ。その後彼女は横になり、早退。痛いことしてるわけじゃなし、随分とウブだな。《発声》を見た後は、《スローモーション歩行》、感情に合わせてポーズを取る《2拍子》など、《四畳半》の基礎稽古を行なう。今までこうした身体への意識を全く持ったことがない様子。
逆に身体訓練ってどんなことやってるの? 尋ねるが要領を得ない。フェンシング? ふぅん。モリエールの上演には必要か。ルーブル博物館の脇にコメディ・フランセーズという国立劇場があり、所属劇団員はコンセルヴァトワール出身者で占められている。日替わりでモリエールの作品が上演され、それがまぁフランスの古典、日本でいう歌舞伎や能楽に当たる。

メニューの最後にチェーホフの「かもめ」を読む。それが今回のワークショップの共通課題だ。同じテキストで演出家のそれぞれのアプローチを比較してもらう。今まで2週間やってきた割には読みなれていない。明日はもう少し感情を入れて読んでもらうよ。
6時間はあっという間だった。

 

通訳のドォミニックさん(右側)と 鳴海康平氏。

通訳のドォミニックさん(右側)と
鳴海康平氏。

「アルタ」2階のアトリエ。 簡単な公演ならできる広さ。

「アルタ」2階のアトリエ。
簡単な公演ならできる広さ。

準備運動をするエリ。

準備運動をするエリ。

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