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コラム

シビウ国際演劇祭2012安田雅弘

「私のあらし」

プルカレーテの演出作品。
原作はシェイクスピアの「あらし」だが、「THE TEMPEST」ではなく「A TEMPEST」と題名がついている。
書き直してはいないが、セリフをカットし、入れ替えている、と思う。
タイミングのズレた英語の字幕はついていたが、ルーマニア語の上演で、詳しくはわからない。

ぼろぼろになった部屋の中に住むプロスペロー。
すべてはこの部屋の中で展開する。
あらしも部屋の外のできごとで、ドアから強い風が吹き込んだり、天井の一部が落ちたりして表現される。
すべてはプロスペローの頭の中で起こった幻影だ、という風に描かれている。
夢だったのかもしれないと思わせる。
キャリバンとミランダを同じ男優が演じていて興味深い。
裸のキャリバンが紙でできたドレスを着るとミランダになる。

何となく「ファウスト」にテイストが似ているなぁ、と思っていたら、主役の俳優が同じだった。
シビウの俳優ではない。
クライオーヴァという都市の俳優だ。
こんな感覚が日本ではなかなかイメージしにくい。
たとえば彼は香川高松の俳優だ、とか、新潟長岡の俳優だ、なんて言い方を日本ではしないし、できない。
それぞれの都市に劇場があって(それは日本にもあるが・・・)、その劇場名を冠する公立の専属劇団が必ずあって、そこに在籍するすぐれた俳優は地元の誇りなのだ。
日本でもプロサッカーはそれをめざしている。
そんな風にルーマニアでは(ヨーロッパ全般そうだが)演劇が機能している。

主演俳優のほかにも、ぼろぼろの部屋、ほこりっぽさ、積みあがった本、紙の多用、解釈上複数の役を1人の俳優が演じる。
似ているはずだ。
ただ、「ファウスト」と違って、世界がこの部屋の中に凝縮し、なるほど「あらし」はこんな風に読むこともできるのか、と巨匠の腕前に舌を巻く。
途方もなくさびしく、切なく、美しい。

プルカレーテは日本では知られていないが、(てか日本で知られている海外の演出家って?)来年来日し、東京芸術劇場で公演が予定されている。
ヴェデキントの「ルル」。見るべきだろう。

(つづく)

©シビウ国際演劇祭

©シビウ国際演劇祭

©シビウ国際演劇祭

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