10/06/25

オイディプス王

アイロン隊

ラドゥスタンカ劇場に小屋入りし、私は笑美さんと共に、楽屋・衣装隊に。
日本から24時間バックに押し込められていた衣装にアイロンをあてる。
日本からアイロンは持って来ていないため、小屋付きの衣装部屋の方にお願いしてアイロンを借りた。
こちらのスタッフは日本でいうと公務員だそうだ。彼らの仕事振りをみていると、
確かに決められた事しかやっていないように思う。ましてや日本人のように俳優が、
衣装作業や舞台を組む等を行う事は考えられないみたいだ。その為か、お行儀の良い働き者の日本人はルーマニアの裏方さん達には評判が良い。
アイロンのメーカーはT-fal。ボタン一つで強烈なスチームが放たれる。随分立派なものがありますね、とちょっと関心。
楽屋を整えている間に笑美さんが先にせっせとアイロンがけをはじめる。途中で私と代わり、厚手の男性の黒いコートを四苦八苦しながらかける。
衣装部屋にいた衣装係のおじさんは、何かと私達を気遣い、アイロンの扱い方を教えてくださる。時にはスチームの水を入れてくれ、時に椅子を勧めてくれ、ペプシを勧めてくれ、お菓子を勧めてくれた。
すっかり彼らは日本語のありがとうを覚え、私はルーマニア語の美味しいを覚えた。

そうこうしている時、舞台班の穂高がお疲れ様です、と顔をだす。
お菓子いただいちゃったと報告したら、彼女は「ええ!ありがとうございますぅ」と勧められてもいないのに机の上に残っていた残りのものに手を伸ばす。
一瞬周りのルーマニア人が凍りつく。
「えっ?まだあなたに勧めてませんよぉ」。
本人全く気付いてないようだったが・・・。

今度は真美がお疲れ様です、と顔をだす。
「ハサミ借りても良いですか?」
生憎衣裳部屋にルーマニアのスタッフさんは誰もいなく、判断がつかない。
「ちょっとなんで良いですよね・・・」と親切おじさんの仕事机においてあった切れやすそうなハサミを勝手に持っていってしまった。
案の定、後でおじさんはなくなったハサミを探してあたふた。結局ちょっとどころか長くハサミを借りていた真美は後で謝る羽目に。

色々お世話になったお礼に、衣裳部屋のスタッフにカッパエビセンをあげた。 
(笑美さんの鞄からは何でも出て来るんです、ホント。)
ちなみにハンガリーで借りたアイロンもT-fal。劇場に家庭用のアイロン一つしか常備していないのには驚いたが。
今回の公演でお世話になった皆様、ありがとうございました。

渡航は二度目ということもあり、シビウに関しては地図を見なくても大体場所がわかるようになっていた。
空間に慣れた分、よりルーマニアの人が、外人でなく(習慣や言葉、表現の差こそあれ)同じ人間としてより身近に感じられた。
町全体がフェスティバルを楽しんでいる。
国が経済的に苦しくても傍から見たその光景は豊かにみえた。
不景気といってもまだまだ日本は便利だし、物があふれている日本の裕福さが演劇を排除しているのだろうか?
個人主義で、でも求めていて、元気がなくて・・・何かが忘れられている?
日本人とは何か、日本の演劇って何か?
日本代表として出て行った時にごまかしはきかない。
では日本ではどうなのか?早速8・9月公演に向けて稽古が始動します。

海外公演に参加させてもらうたび、自分のスケールの小ささに気付かされる。

植田麻里絵

10/06/24

オイディプス王

イロイロと

なんで、30cmの高さでってオーダーした台が
20cmか40cmの中から選べって言うんだ?!

19人のツアーで、ホテルの部屋代、
その計算おかしいだろ?!

ポスターが届いてないって騒いだくせに
あるじゃん!

デカイ荷物があるから大きい車を、 
って言ったのに普通車かよ!

もう少し待って、ってどのくらい待てばいいんだよ!

エレベーターが数基あるなら連動して動こうよ。
じゃないと、意味無く全部の階に止まるじゃん!

っていうか、繁忙期なんだから
エレベーター3基を全部運行してくれ!

トイレで使用したペーパーは流すの? 流さないの?
ゴミ箱に入れて欲しいなら、もっとデカイの用意しろ!

女性用トイレの便座は、必需品でしょ?!

アタシだって休みたいぜ! いつから休日ないと思ってんだよ!
休むなーーー!


海外公演は、本当にイロイロとあります。
最終的にはなんとかなったり、丸くおさまったり、
無事にクリアしながら旅は終わったわけで。
クリアすることは大事なんだけど、
それは日本人的感覚なんだと、気づかされることも多い。

特に人とのやり取りは、ムズカシイ。

イヤ、どうやったって日本人なんだからさ、アタシ。
自信持っていこうぜ! 
待て待て。ここは現地の様子を見ながら
出方を決めようぜ、アタシ。
いや、やっぱり先に主張したほうがヨーロッパ風か?
こうやって悩むことが、すでに日本人なのでは?!

ぶははっ。アタシ、小さいなあ。
いやー、きっと次もこうやって悩やみはつきないんだろうな。

※ちなみに下の写真は、どこかで見た女性用トイレのマークです。

小笠原くみこ

10/06/22

オイディプス王

海外公演で大変なのは…

海外公演というとやっぱり大変なのは現地スタッフとのやりとりなのです。
民族性の違いが如実に出ます。
まず、自分の仕事以外のことは絶対しません。そしてそれは当たり前なことなのだとか。

ルーマニア公演当日、劇場に入る時にドアマンがいるのですが、僕らの荷物を入れるのにやさしく手伝っているのを見て感心していると通訳のダニエラさんが「あたりまえじゃん。これが彼の仕事なんだから」ってさらっといっていました。

ドアマンはドアマンの仕事、衣装は衣装の仕事、大道具、照明、音響から、楽屋掃除、そして役者等々、きちんと役割分担がなされています。もし時間が余っているからと言って役者が大道具の手伝いなどしようものならどやされるんだとか。「もし怪我などされたら責任は持てない」ということらしく。

自分の事は自分で責任を持つ。という、いわいる個人主義。これって日本人にはなかなか馴染めない感覚で、意外と厄介。
早く皆で協力して仕事終わらせたいのにそれがかなわないことが多い。
仕込み中に脚立が必要で、お願いすると「今、脚立担当がいないから」と言われ、いちいち待たされる事もあったり。なんだよ脚立担当って。
てな感じで、劇場仕込みは毎回厄介なものなのです。

しかしここで登場するのがこの人。
舞台監督の本さん。髪の毛はサイヤ人よろしくおったて茶髪に、足元は下駄。カランコロンという音に、ルーマニア人のみならず日本人も振り返るような一風変わった日本人なのですが、彼の独壇場なのであります。
ヒゲのはやした舞台担当のルーマニアのおっちゃん。見るからにどこにでもいる頑固な職人さんですわ。初めのうちは「また面倒な外人がやって来た、わしは何もせんぞ」とばかりに身構えていたのですが、本さんにかかるとイチコロなのです。

本さん、英語しゃべれません。ルーマニア語、一言もしゃべれません。しかし、怪訝そうなおっちゃんの目をかっと見据えて、
「コレ(部材を指差す)、イ・マカラー・クミタイ。(今から組みたい。)OK?」という、最後のオーケーだけが英語で、あとは日本語、しかもイントネーションが微妙に英語チックになり、もはや日本人にも理解しがたいわからん言語を発します。
ところがそれを聞いたおっちゃん、いやいや聞いたというか感じたおっちゃんは「オーケー、オーケー!」と急に活き活きと働き出します。本さんに同じ職人の血を感じたのか、本さんの熱い目力と発語になんか通じ合ってるようなのです。
本さん「違う!チ・ガーウ。コッチ」
おっちゃん「…」
本さん「コーーーチ!(大きく腕を上下)」
おっちゃん「Oh、OKー!」
はたから見るとなにがなんやらなのですが、二人はいつの間にか意気投合、気がつくと着実に舞台は出来上がっています。
休憩時間は、大道具部屋にご招待されコーヒーまで振舞って頂くほど。恐るべし本弘。
おっちゃんが「日本行ったことあるよ。パークハイアットホテルに泊まった。浅草ー」などと陽気に話してくれました。いいとこ泊まってんじゃんおっちゃん。

人種も違うし、言葉も違う現地のスタッフたちとそんなこんなしながら一緒になって一つの舞台を作り上げる。
これも海外公演のひとつの魅力だなって思います。大変ですが。

後日、ラドゥスタンカ劇場の専属日本人俳優の古木さんと飲む機会があって彼が言うには、
「劇場のスタッフが山の手さんのこと感心していましたよ。舞台の使い方や、楽屋の使い方がとてもすばらしいし、時間もきちんと守る。彼らこそ本当のプロだって。ルーマニア人も見習うべきだって言ってました」
とのこと。
おいおい、どうせなら、本番のこと褒めてくれよな。

岩淵吉能