10/06/12
即席クルー
シビウ演劇祭は国際演劇祭。なんと演出家の記者会見があるのだ!本番翌日、今回撮影班でもある私は、即席クルーとして安田さんに同行させてもらった。
街の大広間の地下、ワイン貯蔵庫のような地下空間に記者会見場はあった。既に関係者は集まっており、ルーマニアテレビのクルーも撮影準備をしている。まるで新作映画の発表のようだ。
会見が始まると、記者は四畳半や発声方法、どうして女性がオイディプスを演じるのかなど次々と質問する。当たり前なんだけど、飛び交う言葉はルーマニア語と英語。安田さんが通訳し易く説明するので、いつもより分かりやすい。
「大きな感情を入れ込むには、普通の声や体じゃ無理」
「日本は地面に神様がいて・・・・」
ふんふん。
「山の手事情社の名前の由来は、山の手線が・・・・」
ん!?山手線?その話聞いたことないぞ?
ルーマニアテレビのインタビューも間に入り、休む間もなく午後はシンポジウム会場へ。今度は一般の方向けに山の手のあれやこれやを話す安田さん。私は暗い室内の為、一眼レフの絞りを合わせようと必死にもがいていた。少々疲れていたので、英語のトークの内容はほとんど耳に入らない。しばらくカメラと格闘していると、何やら皆の視線を感じる。
「謡を聞かせてくれってさ!」と安田さん。
ええっ!?あれを、今ここで!?完全にカメラ小僧に化していたのに、そんな急に表舞台に出ろってか!?流石山の手、いつ何時も戦闘体制でなければならぬのだなっ!よし、ここは一つ!!!
左を向くと、先輩浦さんは暗闇に紛れて見えなかったが、後輩永里子は半分椅子から立ち上がろうとしている。私はどぎまぎしながらも、こっそりスカートのホックを外し万全の体制をとった!!が、次の瞬間、安田さんが言った。
「いいやいいや、俺がやるわ!」
………。
私はホックを外したまま、静かに、速やか腰をおろした。
三井穂高