10/02/17
雨の降る日には
雨が降った日のことです。
稽古に行きがてら
春琴抄の本を読んでいたら
電車のなかに
傘をわすれました。
田園調布駅について
改札をでたときに
傘がないことに気づき
あっ
と声がもれました。
私はそのとき
これがリアルか
と思いました。
演技でこれができればなぁと
もう一度
あっ
と言ってみましたが
なんか違う気がしました。
そのかわりに
通りすがりのおばさまと目が合いました。
私は
とりあえずここではやめよう
そう心に誓いました。
同日
稽古の帰り道
近くのコンビニで
ビニール傘を買いました。
私は電車のなかで
春琴抄を読みました。
そして
わすれました。ビニール傘。
私は最寄駅の阿佐ヶ谷の改札をでたとき
あっ
とは言いませんでした。
表情が
ハッ
となったのです。
けれども今回はもう一度
ハッ
はやりませんでした。
それよりも
居眠りにも負けず
読書にも負けず
電車のなかに
傘をわすれないで降車できる人間に
私はなりたい
そう思いました。
石原宏是