11/06/21

傾城反魂香/ルーマニア

百聞は一見に如かず

実は今回が初海外の私。
調べても調べてもわからない事が沢山。

・飛行機に乗る時は高校卒業の証明書がいる(ここまで学歴社会の波が…)。
・初めて飛行機に乗る時は医師の診断書が必要。なぜなら気圧で臓器が破裂するから(そんなに恐ろしい乗り物とは…)。
・飛行機では国境を越えたら靴を脱がなくてはいけない法律がある(宗教上の関係だろうか…)。

…と、私に大嘘を教えてくる先輩達。
戦うべき不安が多いようだ。

法に触れず、尚且つ健康体で、無事にルーマニアに到着した一行。
臆病者でもここから不安とは言ってられない日々が始まる。

拙すぎる英語を頼りに、私は買い出し隊。
少しだけ調べてきたルーマニア語を頑として使わなかったのは、100%染められてなるものかという決意と解釈していただけると多少プライドは傷つかない。
英語で伝わらなかったらとにかく身振り手振りで。
やらなくてはという目的がそこに存在する以上(繰り返しになるが)不安とは言ってられない。

ビデオ撮影係の私。
シビウでの本番は2階席で観た。
最初はお客様に邪魔にならないように三脚を立て撮影するつもりだったが、あっという間に2階席は満席。
上から一階席を覗くとこちらも満席。
遂には立ち見のお客様で溢れる事態に。
私は三脚を急いで畳み、ビデオを手に持って撮影する事に。

本番が始まってからダイレクトにお客様の反応を感じるところに自分が居る事に気づく。
呼吸の音まで聞こえそうなお客様との距離感の中(本当にぎゅうぎゅう詰めだった)、本番中のひとつひとつの反応に少し汗ばむ。

ついてきてるだろうか。
今更ながら言語の壁を意識する。
ぐるぐる頭を回る。

しかし、それを拭い去るように終演後盛大な拍手と拍手と拍手。
言語の違いは些細な問題であり大きく見れば一つの方言に過ぎないと実感。
これは後日、シビウで観た他の団体の公演でも感じた事だが、芝居の先に目的とそれに伴った熱さえあれば、ちゃんと伝わるという事。
臆病者百聞は一見に如かずを学ぶ。

ひとまずの安堵。
それと共に12月の日本公演の事を考え、立ち向かうべき新しい壁について認識する。

終演後の様子を撮影するべく一階のロビーに降りる途中、お客様に「よかったよ!」とにっこりされた。
私の「ありがとう」は緊張して強張っていたからちゃんと伝わっただろうか。
不安だ。

村田明香



11/06/21

傾城反魂香/ルーマニア

異文化交流

シビウでの公演も無事終わり、つかの間のオフを、観劇、買い物等で過ごす中、昨年行きそびれていた博物館に一人でぶらりと行ってきました。建物に入る前に中庭をブラブラ歩いていると、一人のルーマニア人に話し掛けられました。

※以下のルーマニア人の言葉は僕の拙い英語の語彙力により解釈したものです。

ル「君は日本語がわかる人だね?」
文「イエース。」
ル「良かった!ちょっと助けてもらえないかい?」
文「OK、オッケー。」
ル「やった! じゃあちょっとこっちへ来てくれ。」

と、建物の中へ連れていかれる僕。 あれ? 簡単なお願いだと思って軽く返事してたのに、何だか大層な事になりそうな予感… 関西人特有のノリが裏目に!
彼の部屋に入ると、まず名刺をくれます。見ると『Head of the Art Galleries』と書いてます。 どうやらエライ人みたい。
そして彼は自分のデスクの引き出しから封筒を幾つか出し、中に入っているいろんな国、時代の貨幣を並べ始めました。

ル「これは昔のフランス、こっちは中国、満州のもあるよ。」
文「ほほぅ。」
ル「そこで君にお願いしたいのは、これを読んでほしいんだ。」
コトリ。 そこにはまた色々な時代の日本の貨幣が。

文「オー! これはとってもバリュアブル。んー、プレシャス?」
ル「だろ?」
得意気な彼。 貨幣に記されている漢字を読んで、紙にローマ字で書いてくれとの事なので、ゴーグル型虫眼鏡をかけて(いる?)早速作業に取り組みます。

文「これはMeiji…こっちは Tenpo …スゲーな、このオヤジ。」
彼のコレクションに感心しつつ、自分の読みとローマ字表記に間違いがない事を願いながら、何とか作業を終えました。

文「フー。」
ル「ありがとう! とても助かったよ。とりあえず乾杯だ!」
仕事時間中にも関わらず、ポーランドのウォッカを振る舞ってくれ、更には博物館を案内してくれるとの事。ラッキー。

ル「この部屋は僕がディレクションしたんだ。」
文「ほー。」
ル「これはアレクサンドル公の時代の物。僕の名前もアレクサンドル、僕も王族だね!」
文「…へへ」
英語力の不足により、ルーマニアギャグにツッコめません。

ル「これは当時使われていた、罪人を縛り付けておくもの。本物だよ。」
文「おぉ、スゴい。ちょっと縛り付けられてる風に立ってみてよ。」
ル「こうかい?」
気のいいオヤジです。その後も二時間かけて博物館内をくまなく案内してくれました。彼がいないと入れない部屋にも入ることができ、かなり有り難かったのですが、案内の途中から、彼の携帯やポケットベルらしき物は鳴りっぱなし。そりゃそうだろ、仕事投げっぱなしで来てるんだから。 さすがルーマニア感覚。

14世紀〜現代までの建造物の欠片や衣服はもちろん、当時の貴族がつけていたジュエリーや、それらを入れる宝箱やその仕掛けなんかもたくさん展示されており、僕はかなり興奮しました。

演劇の為にここまで来たけど、その国の演劇を理解しようとすると、やっぱり文化や歴史にも触れないといけないのでは、と感じました。

文秉泰

11/06/14

傾城反魂香/ルーマニア

ブカレスト公演の報告です。

安田です。
少し遅くなりましたがブカレスト公演の報告です。

劇場は、「オデオン劇場」。
さすがに首都ブカレストは劇場も多く、中でも「オデオン」は市の補助を受ける有名劇場で、若者に人気のある劇場と聞きました。
国立ブカレスト劇場やオペレッタ劇場などのある界隈に建っています。
銀行だの病院だの旧共産党本部だの、でかい建物がある中では、かわいらしい建物です。

100年の歴史があり、客席の天井が何と全面開閉します。
しかも電動で、100年前からそのままとのこと。
実際に開けてもらったのですが、確かにすごい。
ちょっと歴史が違うなぁ。
1階席にやや斜面のついた席があり、2階、3階はボックス席。3階にも普通の席が広がります。4階は天井桟敷ですが、安全性を考えて今は入れていないとのこと。
歴史ある劇場は、いろいろな思いを吸い込んで、風格をたたえています。
ま、ところどころかなりガタが来てはいますね。
ヨーロッパの劇場では珍しくありませんが、舞台の広さが、客席の3倍以上はあります。
私たちが下見した日は、この舞台に客席を仮設して、「ピラマスとシスビー」という芝居をしていました。
シェイクスピアの「夏の夜の夢」の一部を素材にし、ルーマニアの演出家賞を取った作品とのこと。
見たかった!

前日は、地下にあるスタジオのロビーで稽古をしました。
スタジオは黒い部屋で、床が昇降し、いろいろな空間が作れるようになっています。
その日は「星の王子さま」を上演していました。
子どもが一人で演じるらしい。
ロビーは広さは十分なのですが、
コンクリートの箱で、声がとても反響します。
教会の中で稽古している雰囲気です。

さて当日。
やはり何か起こるもので、11:00にゲネプロを始めると、間もなくプロジェクターの電源が落ちてしまいました。
日本から持ってきた電圧変換器(トランス)が焼けてしまったようです。
原因はオペ室を4階に移したことらしいので、急遽オペ室を1階ボックス席に移動。
1時間後にゲネプロを再開できました。

本番は19:00。やはり明るい。
お客さんの出足が遅くても、もう気になりません。
19:00過ぎには補助席まで出て、3階までいっぱいです。
上演中の客席は静かで、シビウに近い雰囲気でした。
やはり後半の姫がみやに夫・元信をゆずる場面では、笑いが起きていて、ついてきてる、ついてきてる。

終演後のカーテンコールは、とても長く、エンディング前から拍手が起こり、結局5回くらい呼ばれていたと思います。
拍手は5分間ほど続きました。

雨宮日本大使がおいでになり、「本当によかった。すばらしい」とお言葉をいただきました。
他にもルーマニアを代表する演出家・トチネスク氏は、「日本を感じることができた」と。
クライオヴァ・シェイクスピア・フェスティバルのボロギナ委員長は、「シェイクスピアの新作を作りなさい。無条件で招待するから」
とのことでした。
ほかにも著名な評論家の方々がいらっしゃったと思います。

ロビーで挨拶をしていると、お客さまはやや遠慮がちにそれでも話しかけてくださり、
「話はわかりましたか?」との問いに、
「もちろんよくわかった」
「雪だるま式に話がふくらんでいくのが興味深かった」
「これが日本的な物語の運び方なのね」
といった感想が寄せられました。

12月には、アサヒ・アートスクエア(東京)で凱旋公演いたします。
詳細が決まりましたらホームページでお知らせしますので、楽しみにお待ちください。


安田雅弘