13/12/03

演劇的生活No.1

『我、声を聴く』

私はいい声をした人が好きである。

だが特別に好きなタイプ、というのはない。電車の中、街中、舞台上、なにかしら私がピンとくる、いい声の持ち主にはなかなか出会えないので、たまに出会うと「あっ! 」と誰かに報告したくなるほど興奮する。それにいい声を見つけた時、私は自分でも驚くほどの行動力でその人に近づく。先日も芝居を観に行ったらその中で歌手の方が歌っていらっしゃって、それが迷うことなくいい声だった。お芝居後、身体は自然とその方に近寄り「よかったです」と熱烈に感想を伝え、写真を求め、名刺を渡した。後から冷静に考えると、いい声がそうさせたのだ。実際私は男性を好きになる時、自然といい声をした男性を選ぶ傾向がある。それは女性も同じ。好きな俳優も歌手もそう。それがここ最近、こだわりが強くなっている気がしないでもない。

まず日常生活。最初に、残念ながら好ましくない声の人はいる。しかも少なくない。この間も電車で大学生くらいの茶髪でずんだれた(※長崎の方言です。だらしない、の意)格好の男性が、私の目の前で友達に意気揚々と武勇伝を語り出した。その声があまりに苦手で鳥肌が立ち、我慢できず車両を移った。その声例えて言うなれば「錆び付いた金属をギザギザした道具で削り続けるような声」。それなのにそれなのに、いい声ぶっている・・・これは完全に罪である。有罪。疲れていると特に耳のセンサーが敏感になるので、稽古の後電車にうっかり苦手な声の人が近くにいると、もう拷問の域。

またその逆で、知人の男性なのだがものすごく声が優しく、というか好みで、何を話されても全く嫌な気持ちにならない人がいる。この人の声は隣で聴いているだけで自然と笑顔になる。癒される、とでも言うのか。疲れた時はその声が聴きたくなる時がある。その声例えるなら「ふわっふわの緑の草原に吹く風は故郷の懐かしき風の如し」。

まぁ、あくまで主観なのだが、「皆がわかるところではどんな声が好きなんだ」と言われれば、アニメ「ゲド戦記」で蜘蛛女の声を担当された時の田中裕子さんの声は極上。低く呟くあの声にノックアウト。セクシーで羨ましくて何度も巻き戻して聴いた。それと、綺麗なだけじゃなく聞きなれない声にも惹かれる。女優満島ひかりさんが興奮した時に出す、あのちりちりっととんがったしゃがれ声は実にいい。ピンと来ない人は是非一回聴いてみてください。おすすめです。

いい声を持った人というのは、気持ちがいい。声のエネルギー、性質、持っている色。すべてがその人にきちんとちょうどよいのである。だから何のストレスもなくその人と話が出来るし、物語に入り込めるし、その声に聴き入ることもよくあるのだ。

今日も気が付けば私の耳と身体は自然といい声を探している。人の声、というものに勝手に心動かされている毎日である。

園田恵

13/12/01

ドン・ジュアン豆知識

1月新作公演「ドン・ジュアン」豆知識 あらすじ

山の手事情社の次回公演は、新作「ドン・ジュアン」です。
公演の詳細情報は、こちらからご覧ください。

劇場でご覧いただく前に、少ししっておくと、より楽しめる豆知識を掲載します。


スペインの伝説で放蕩貴族「ドン・ファン」の物語を下敷きに、モリエールが書いた作品。モリエール以外にもバイロン、プーシキンらが書き、モーツアルトが作曲したオペラは「ドン・ジョバンニ」というタイトルになっています。

物語は、ドン・ジュアンが、修道院から連れ出してまで結婚した妻のエルヴィールを捨て、別の女性を追いかけるため、従僕のスガナレルとともに旅に出ているところから始まります。

旅先では、百姓ピエロとその婚約者シャルロットに出会い、シャルロットとその友人マチュリーヌ、二人同時にくどいたり、
物乞いをする貧者を手ひどくあしらったり、
妹エルヴィールの仇をうつためドン・ジュアンを探していた兄二人と偶然出会ったり、
以前ドン・ジュアンが手にかけた騎士の墓で、騎士の像を夕食に誘ったり、
といった出来事が起こります。

自宅へ戻ったドン・ジュアンとスガナレル。
借金取りのディシュマン氏が訪れますが煙に巻かれて追い返されます。
さらに、ドン・ジュアンの父ドン・ルイ、妻のエルヴィールがそれぞれ訪れ、改心するよう語りますが、ドン・ジュアンは右から左へ受け流し、夕食をとり始めます。

そこへ旅先で出会った騎士の像が現れ、驚くスガナレルをよそに夕食をともにすると、騎士の像は翌日自宅へ招待すると伝え、ドン・ジュアンはその申し出を快諾します。

父ドン・ルイが再び訪れると、ドン・ジュアンは改心するとウソをつき、
妻の兄ドン・カルロスも再び現れ、妹と復縁するよう懇願しますが、神を持ち出しその場を逃れます。

女の姿の亡霊も現れ、ドン・ジュアンは刀で斬りつけようとしますが、亡霊は消え去り、さらに、騎士の像も再び現れます。

物語はもう終盤ですが、ラストシーンは、ぜひ劇場でお楽しみください。

13/11/29

演劇的生活No.1

『良いモノ』

先日スカイツリーに行った日のこと。

大雨にも関わらず入口は長蛇の列。
ふと横を見ると一組の男女が言い争っている。
二人とも年は中学生といったところ。
楽しいデートのはずが、大雨で予定が狂いイライラしているのだろう。
お互いに引く様子はない。

一瞬の沈黙の後、突然男が女をビンタ。
すかさず女がビンタをお返し。
びっくりしたオトコが女の胸ぐらを掴む。
女も負けじと胸ぐらを掴む。
これをしばらく繰り返す。

大勢のギャラリーがいる中、取っ組み合いが始まる。
よくやるわ、と呆れつつ思ったのは
「良いモノ見させてもらった」である。

別に痴話喧嘩が見たかったワケではない。
強い感情のもと、互いの存在をかけてぶつかり合っているのが興味深かったのです。

この「良いモノ見させてもらった」をどれだけ観客に思わせるのが演劇の仕事のひとつだろう。

観客は普段では見られない瞬間を求め、時間とお金を費やしてライブハウスや劇場に足を運ぶ。
僕らはそれに真摯に応えなくてはならない。
日常で見ることのできる風景を舞台にのせても仕方がない。
その為には演じ手も危険な橋を渡らなくてはならない。
自分を揺らがせなくては。

さっきまで喧嘩をしていたカップルは仲直りをしたのか、手を繋いで何処かへ消えていった。
笑顔で。
それもまた劇的でした。

川村岳

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