14/01/10
『モリエールとの出会い』
一昨年、ワークショップ講師として、
パリに呼ばれる機会があった。
2週間の滞在中、時間があれば、劇場に足を運んだ。
ダンスでも芝居でも、できるだけ見に行った。
モリエールを劇場でしっかり見たのは、
その時が初めてだったように思う。
「モナリザ」で有名なルーヴル美術館の脇に、
位置する「コメディ・フランセーズ」という劇場。
国立劇場であると同時に、劇団の名前でもある。
別名「モリエールの家」とも呼ばれる。
モリエールは、フランスを代表する劇作家で、
日本でも、知名度は決して低くないと思うけれど、
シェイクスピアなどに比べると、
上演頻度はとても少ない。
不勉強ながら、実際の舞台はほとんど見たことがないし、
告知のチラシなども、目にした記憶があまりない。
しかし、さすが地元というか本場、
コメディ・フランセーズでは日替わりで連日上演されている。
改装中で、隣りの仮劇場での上演だったが、
平日昼間の公演なのに、満員。
芝居のあちこちで大きな笑い声が起こっていた。
みんなモリエールが好きなんだ。
国民的な劇作家なんだな。
歌舞伎みたいなものなのかしら、とも感じた。
近世の衣裳を着て、セットも古めかしい。
おそらく原作通りのセリフを語る俳優。
「型」のようなものが感じられる演技。
この役はこうやるもの、という長年のルールがあるんだろう。
一方、別の劇場では、
現代的なモリエール作品に出会った。
現代の服装に、台本にはないセット。
俳優は時折、iPadを小道具に芝居をしていたりする。
オランダで活躍する演出家が、ドイツの俳優を使って作った芝居だ。
ドイツ語上演だから、パリの観客は、
自国の作品を字幕で見ることになる。
そちらも満員で、お客さんは大喜びだった。
少なくともパリでは、モリエールはそのように楽しまれている。
伝統芸能であり、同時に現代劇でもある。
作家や作品てものは、そのようにして
長い年月を生き延びていくものなのだなぁ、と痛感した。
昔の上演を偲ぶ機会もほしいし、
普遍性を持っているのであれば、現代的な意匠の作品も見たい。
歌舞伎作品を現代的に上演している山の手事情社のやり方は、
ヨーロッパでは決して特殊な取り組みをしていることにはならないんだ、
と少し励みになった。
モリエールをやってみよう、と思うきっかけの一つだったと思う。
安田雅弘