11/05/28

傾城反魂香/ルーマニア

取り返せるか

稽古場からの帰り道。
ちょうど中間地点で自転車の後輪のタイヤがパンク。
残り7キロ。雨。衣裳やメイク道具で大荷物。
自転車を押し家まで1時間歩く。
寒い。風呂に入らなくては…と思いながらも体が動かない。
TVを点けると「今日の答え合わせ占い」。最下位。
「取り返しのつかない失敗をしてしまった日。注意力散漫が原因。」
注意力散漫…取り返しのつかない失敗…そのまま意識を失う。
メイクしたまま明け方まで寝てしまった。
41歳のお肌に取り返しのつかない失敗であった。

客演させて頂いているSCOTの演出家・鈴木忠志氏は、
間もなく72歳になられるというのに、一旦集中状態に入ると止まらない。
やっと終わった…と時計を見ると、夜中の1時、なんてことは珍しくない。
昔は4時、5時、もザラだったというから恐れ入る。

凄いのは、その間休憩を挟まないことだ。
5分休憩、ちょっとタバコ、なんて無い。
出ている役者はもちろんトイレにも行けないし、水も飲めない。
ひたすら何時間も忠さんに引っぱられ、集中し続ける。
下手をすると、ずっと正座しっ放し、とか、立膝のまま、とか、
ベテランさんは上手く体を扱うコツを掴んでいるようだが、
私などは立ち上がれずにコケたり、
痺れたまま飛びおりて捻挫したり、
テンヤワンヤである。

しかし、そうやってバカみたいに集中し続けると、
役が体に憑いてくる感覚がある。
2年前は野外劇場のセットの廃車の中だった。
微かな練炭のにおいとカビ臭さ。
車内にはパンティが干され、マッチョな男性のポスター。
暑さも雨も、湿度も虫も、日差しも闇も、マッチョもパンティも、
全部自分の中に溜まっていった。

忠さんはよく「棲む」という言葉を使う。
役に棲み込む。空間に棲み込む。廃車に棲み込む。
それは、今まで私が考えていた役作りとは、一段違った深度であった。

東京でその深度を求めるのは難しい。
時間は細切れに進んでいく。
雑事雑念に体が拡散していくのが分かる。
ウカウカと役の表面をやっている気がして
何とも居心地が悪い。

シビウでの初日まであと一週間。
つっこめ私。

大久保美智子

11/05/27

傾城反魂香/ルーマニア

11年たって

『傾城反魂香』の稽古は佳境を迎えています。

思えば初演は11年前、西荻窪の劇場というより天井の低い地下のスタジオでの公演でした。
楽屋らしい部屋などなく裏口へつづく階段に腰掛けてメイクしていたのを思い出します。

初演の『平成・近松・反魂香』は“実験公演“ということになっていました。
それほど実験的なことはやってなかったと思うのですが、
普通の劇場とは違う狭い空間で上演することや、和物の古典戯曲を全編通しで上演するということなどは今までにない試みでした。
この手強い戯曲をどうするか、いろいろな試行錯誤を続けながら作品を作っていきました。

当時は山の手事情社が《四畳半》をスタイルとして取り入れてから間もない時期で、現在の劇団中核メンバーはほとんど全員まだ入団3〜4年目くらいでした。
12月の後半に行われた公演で、お客さんも毎回少なく、クリスマスの日など出演者の数の方が多い時もありました。

それでもまだみんなの中には、何か新しいことに飛び込もうとしていることへの興奮みたいなものはあったような気がします。

その後10年以上にわたり《四畳半》での公演を重ねてきて、このスタイルもいくらか深められてきたように思いますが、
一方でかつてのような興奮を失ってはいまいかと問いかけながら、新たな《傾城反魂香》の稽古を重ねています。

近松門左衛門は自分の死後300年近くたっても現代演劇として『傾城反魂香』が上演されるとは思ってなかったでしょう。
海を渡って地球の反対側の外国人に見てもらうことなど想像出来なかったでしょう。

これもひとつの奇跡かもしれません。

近松が書き上げたときの興奮をそのまま伝えられるよう、がんばりたいと思います。

山本芳郎

11/05/26

傾城反魂香/ルーマニア

本番間近

広い森下スタジオで、音響も入って、舞台もできあがってきたのを見ると、
いよいよ本番が迫ってきているなと思います。
そんな私の最近は、ひたすらビデオで稽古を撮影し、
乾燥しやすい稽古場に霧吹きで水をまいています。
それがどれだけ役に立っているのかはよくわかりませんが、
役者にとって喉がつぶれることは最高につまらないものです。

とはいえ、キャストの皆さんは喉かれとは無縁のようですが。
今日も格好いい声が稽古場に響きます。

完成に近付いていく稽古の様子を見ていると、
本番が見られないのが残念でなりません。

鯉渕 翼