09/05/20
崩壊をわが身に
お久しぶりです。
山の手は一昨年の『傾城反魂香』『道成寺』以来の
出演の山田です。
「タイタス・アンドロニカス」では、国家の崩壊が描かれます。
この題材を絵空事として描き他人事として演じるのではなく、わが身のこととして身体で体験し、その身体の様子を通じて観客に現在を炙り出してみせるのが俳優の仕事です。
当たり前のことですが、怠ったり軽く見がちなことです。
当たり前だから簡単に出来るかといえばそうでなく、
なかなかに大変なことです。
何しろ、わが身に全く関係のない危機や試練をわが身に体験させるのですから。
僕の役は05年に引き続きサターナイナス(ローマの
皇帝)です。
現実社会ではなるはずもないローマ皇帝(の状態)に
なって、不格好に国家を背負い、気付かないうちに
自らの周辺に起こる謀略の餌食になり、身に覚えの
ない復讐劇に巻き込まれ、最終的には屈辱にまみれた
状態で死にます。
これらを身体で体験するのです。
普通の身体よりもひときわ鮮やかにこの「身体の
体験していること」が炙り出ることを目的にした四畳半
スタイルで。
自分の身体で「そこに起こること」が体験出来ていないとき、それはすぐ身体に現れます。
そういうときは演出家の指摘や周囲の反応を待つまでもなく、自分で気分が悪いです。
安全圏にいるままなのですから。
反面、ちょっとでも自分の身体で「その人物・その場所・その時間・その感情」を体験できたときは、それが
どんなに身体に負荷がかかったり精神にストレスを
溜めるような場面でも、なんともいえない爽快感が身体に残ります。
さらに体験の濃度が濃いときには、今までにない境地を味わえます。
俳優にとってのささやかな自己記録更新の瞬間です。
昨日の稽古でも一回、その更新のときが訪れました。
幕開けのシーンで自分の身体が皇帝の重圧と恍惚を
味わっている、と感じたのです。
俳優の至福の瞬間です。
その至福のまま、次はタイタスの娘ラヴィニアを妃に
もらうと宣言する皇帝のセリフが来ました。
「タイタス、貴方の家名を高めるため、ラヴィニアをわが娘に!…妻に!…娘に! 娘に!」
何度いっても間違いは間違い。
正解は「ラヴィニアをわが妃として迎え、婚礼の儀を
挙行したい」です。
新記録に身体がついていかずセリフをトチるとは、まだまだ甘いなあ自分。がっかり。
社会にある危機とわが身体の危機、2つの状況をうまく乗りこなし、ルーマニアに乗り込みたいと思います。
山田宏平