稽古場日誌

外部活動 大久保 美智子 2016/12/24

いろいろ目にしみた

劇団江戸間十畳「煙が目にしみる」に出演してきました。公演は12月11日に無事終了しました。

畑が全く違う現場でしたので、戸惑うことばかりでした。稽古場では、参加が遅れてしまったこともあり、ひとり焦り、隅っこで膝を抱えていました。拗ねていたわけではなく、余裕がなかったのです。馴れない稽古場におぼつかない台詞。呼吸が浅くなり、共演の方々が気を遣って冗談を言ってくれてもうまく返せない。やばい、やばいぞ私!

ある時は「全員ぶっ殺す!」と思って登場しました。この「ぶっ殺すモード」は久しぶりでした。利賀村で初めて鈴木忠志さんとやった時、何をやってもうまくいかず、止められ続けてもう何も考えられなくなり、「ぶっ殺す!」と本気で思って臨んだテイクがありました。それが自分にとって新鮮だったのです。それまでは「お客さんに好かれたい」と無意識に思っていたような。それを「ぶっ殺す!」に変えたら、少し自由になった気がしたのです。今でも追い詰められた時、「ぶっ殺す!」はたまに発動します。

ここを乗り切れたのは、ひとえに演出の中井さんに役のイメージを常にいただいたおかげだと思います。映像の演出家だからでしょうか。判断が速く、提案が具体的なのです。樹木希林、青島幸男、東八郎のおばあちゃんを観てください、と言われました。おばあちゃんの役だったのですが、自分のおばあちゃんの演技が「何をやってもリアルじゃない」と思えてならなかった時、「リアルじゃなくていい」と。東八郎って男だよと。フィクションなんだと。樹木希林があのおばあちゃんの役をやった時、何歳だったんだ? と。老いを遊べと。中井さんの要求しているレベルで遊べたかといえば、それはまだまだなのですが、ひとつふっきれたのは確かです。

そしてなにより戸惑ったのは、終演後、お客さまが声を掛けてくれることです。「おばあちゃん、よかったよ!」と見知らぬお客さまが握手を求めてくれます。これはビックリな体験でした。ここから随分長いこと遠ざかっていて、安易にここを求めちゃダメだと思ってた節がある自分に「両方取れ!」と啓示が下ったようでした。高度な演劇とお客さまの心に入っていく演劇。はい。それは簡単なことではないですが、両方取りに行きます。

おばあちゃんの役をやるに当たって、並みいる上述の先輩たちの他に、常に自分の頭に浮かぶ女優がいました。1年ちょっと前に亡くなった、私の大学劇研時代の同期であり、元山の手事情社の女優、丸山朋子です。『グラフィティ』という公演でおばあちゃん役をやっていました。そのおばあちゃんが、普段の丸山朋子とほとんど変わらないのですが、おばあちゃんに見えるのです。こりゃ何なんだ? と当時から不思議でした。ちょうど今回、私はこの世とあの世を繋ぐ役だったので、あの世の朋子と飲みたいなぁ、朋子があの時どういう芝居をしてたのか、聞きたいなぁと、旨そうにタバコを吸う朋子を思いながら公演を終えたのでした。

大久保美智子

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