稽古場日誌

皆さん知っての通り、欧米では屋内で靴を脱ぐ、という習慣がない。
日本でもビジネスホテルなどは、靴を脱がないで室内に入ったりするので、ツアー中の宿泊先のホテルでは靴を脱がないことにあまり違和感を覚えなかった。

しかし、劇場ではちょっと違和感を覚えた。
単純に舞台上の床があまりキレイではない。
日本の劇場で、特にそこそこの大きさの劇場となるとだいたい床がキレイである。
素舞台上もはだしで歩けるくらい、劇場がしっかり管理している。
デコボコしてたりなんてことはほとんどあり得ないし、本当に大きな劇場になればビー玉を置いたら転がっていくこともおそらくあり得ない。

ルクセンブルクのエッシュ劇場は、そこまでではなかったが、ルーマニアのマリン・ソレスク劇場は歴史ある古い劇場というのもあり、とてもじゃないけどはだしで歩けるような床ではなかった。歩いたらおそらく足をケガするほどのレベル。

日本で歴史ある劇場となると100%キレイに管理されているのではないかと思う。
海外で芝居をするたびに、日本の劇場はすばらしいなと思う。

僕ら山の手事情社の舞台は今回に限らず、本番中舞台上は土足厳禁になる。
そのために舞台セットが組まれたら、舞台上をみんなで掃除をする。これは舞台袖も含めてである。

マリン・ソレスク劇場でもセットが組まれたあと掃除をした。舞台の袖中にもともとカーペット状のものが敷いてある部分があったのだが、そこを日本から持ってきたコロコロで掃除をすると、ひと転がししただけでもう粘着力がなくなるくらい、途方もない作業だった。
劇場をキレイに管理するスタッフはいないのか!?
いや、いるんです。掃除専門のスタッフがいるんです。でもこの汚さです。
掃除の概念そのものが、もしかしたら日本人と違うのか!?

床が汚いのは劇場だけではない。当然ですよね、靴を脱ぐ習慣が無いから。
今回ルーマニアで本番前に稽古場として、劇場施設内にある一室をお借りした。「図書室」と呼ばれる部屋だ。
土足OKの部屋なので、当然のごとく床は普通に汚れていた。
われら劇団員は、まず掃除を始める。
すると劇場の掃除専門スタッフのおばちゃんが「わたしが掃除する」とやってくる。手にはバケツとモップ。
モップひと拭きではキレイにならないほど汚れていたので、「自分たちでやります」とお断りをした。
しばらくすると、われらが倉品淳子先輩が先ほどの掃除スタッフのおばちゃんを懸命になだめている。「自分たちが使う場所は自分たちで掃除をする。これがジャパニーズスタイルなんだ」と。

何があったのか。

どうやら、掃除スタッフのおばちゃんが仕事を奪われ、何もしないでいたら上司に「なにサボってるんだ」的なことを言われたらしい。
そこで、おばちゃんが「やっぱり掃除をさせてくれ」と再びやってきたところを、倉品先輩は必死になだめていたのである。

掃除の概念の違いが生んだ文化摩擦だと、そのとき僕は思った。

ともあれ、やはり日本人の掃除に対する執着は相当強いのだなと改めて思った。

谷 洋介

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