これから経験する

僕には97歳の祖父がいる。大の酒好きだ。
でも昨年、病気をして入院し、医者から酒を止められた。

実家で父と同居しているのだが、退院した後、父の目を盗んではコンビニに缶チューハイを買いに行っていたらしい。
そしてその都度、父は祖父を叱ったらしいが、それでも買いに行くので、ついには財布を取り上げたらしい。

僕は、この話をあとで当人の父や兄から聞いた。
あとから聞くとちょっと笑ってしまうのだが、祖父も父もお互い必死だったんだろうな、と思う。

父は死なれたら困るから、必死で止める。
そりゃそうだ。医者から止められているのだから。

でも『高瀬舟』を読むと、祖父と父とどっちが正しいのかわからなくなる。
祖父だってどうしても酒が飲みたいから、必死で買いに行くのだ。
後先のことを考えずに、いま、どうしてもやりたいことなら、許してあげてもいいのかも、とも思う。

かと言って、父が許したりでもしたら、それもどうなんだろう？　と思ってしまう。
本当に難しい問題だと思う。

こういう問題は大なり小なり、たくさんの人が経験していると思う。
そして経験していない人は、これから経験する。絶対。
『高瀬舟』は今、観ておくべき作品なのではないか、と思う。

谷洋介

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『高瀬舟』あらすじ

高瀬舟に乗せられる罪人は皆、悲しい素振りを見せるのが常だが、弟殺しの罪を犯した喜助はなぜか楽しそうである。
護送役の同心である羽田庄兵衛は不思議に思い、喜助に事の次第をたずねる。
喜助が語った彼と弟の身の上に、庄兵衛はやり場のない思いと社会制度への疑問を抱くのであった。

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劇団山の手事情社公演『池上show劇場【PREMIUM】』

構成・演出＝安田雅弘
日程＝2021年11月5日(金)～7日(日)
会場＝山の手事情社アトリエ

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