稽古場日誌

ほんのりレモン風味 鹿沼 玲奈 2022/02/04

狂っちゃう果実

「アレが私の青春だったのだろうな」
と浮かんだのは、この劇団に入団して間もない頃の思い出だ。
その頃私は恋をしていた。

背が高く、顔も趣味も良い、年上の男性だった。
彼は私を妹のように扱ってくれ、私は彼にゾッコンだった。意味のない話で笑い合って、意味もなく一緒に過ごした。東京、というところがそんなに悪くないと思わせてくれたのは彼だった。

ひとつ障害があったのは、彼がゲイだったということだ。
もうこれはどうすることもできないことだった。
彼も私の気持ちには気づいていた。何度か行為をチャレンジしてみたけれど、やっぱりダメだった。身体も胸も痛くて、苦笑と悲しみでグッタリ動けない。
その空間が一息つくと、私を慰めるように彼は食事を作ってくれた。私は泣きながら彼の腕を褒め称えた。
この世には絶対に手に入れられないものというのがあるのだな、と思い知った。

それから私はファッションを変えた。なるべく男の子っぽく見えるように、髪を切った。ある時期、私の持っている洋服は、稽古着以外すべて男物だった。まったく意味がないことはわかっているけれど、抵抗せずにはいられなかった。
友人関係はしばらく続いたが、やがて彼には彼氏ができ、うまく笑えなくなった私は身をひいた。
髪を伸ばし、スカートを履いた。そして新しい恋人をつくった。

渦中の私は狂っていて、友人からは「もっと自分を大切にしなよ」という言葉をしょっちゅうもらっていた。それでいて「自分を大切に」の意味がマジでわからなかった。
ニュージェネレーションの彼らも、今まさに作品づくりの渦中にいる。欲しい景色を得たいために自分をいじめていじめて、いじめぬいているんじゃないかなと思う。
それで良いと思う。
彼らの狂った思いが実をむすんで、ご来場いただいたお客様に、思い思いのレモン風味を差し上げられれば良いと思う。

青春って、甘くないですね! でも、甘いだけが旨味じゃないですよね! って。

鹿沼玲奈

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『ほんのりレモン風味』omote

ニュージェネレーション公演『ほんのりレモン風味』
日程:2022年2月23日(水・祝)~27日(日)
会場:大森山王FOREST

詳細は こちら をご覧ください。

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