稽古場日誌
こんにちは。来年2月の二本立て公演『オセロー』『マクベス』の『マクベス』に出演することとなりました有村友花です。このような機会をいただけてとても嬉しいです。しかも、今回は女優だけによる『マクベス』。男性ばかりが登場するこの戯曲がどのようになるのか、楽しみでなりません。
さて、私の昔話に少しお付き合いいただけますか?
大学生の頃、「茶道をやっていたら清楚な女性になれそう」と、そんな理由で入部した茶道部での話です。大学2年生の冬、部長が「来年度、部長をやりたい人はいるか?」と聞いてきました。私と同期のA子、B子の3人は誰も名乗りを上げず、部長と顧問の先生で決めることになりました。がその帰り道、「次の部長は有村さんにしようかと思っている」と部長が耳打ちしてきたのです。(まるでマクベスへの魔女の予言のようです。)
それを母に話すと「就職活動のアピールになるし良かったね」「現部長に頼りにされているんだね」ととても喜んでくれました。そして母は、「絶対に部長になった方がいいよ」と私に言いました。
「そうか、就職活動で少しでも有利になるのは喜ばしい、大好きな部長の信頼を手に入れたいし、これを機に連絡を取る理由ができる。好きな茶菓子を買いたい放題ではないか」
自分が部長になったら何をしようかとビジョンが広がりだし、“部長”という地位がどんどん輝いて見え、手に入れたいと強く思うようになりました。(まるでマクベス夫人が夫の背中を押すように、私の中の欲望をそそのかしています。)
それと同時に不安が押し寄せてきます。「私みたいな根暗な人間で良いのか」「人をまとめるという点ではA子とB子のほうが向いている。他の部員や顧問の先生もそう思っているのではないか」「そもそもA子とB子も実は部長になりたいのではないか」
そんな中、A子が「彼氏の誕生日に旅行に行きたいから、そのためにバイトを増やしたい」と相談を持ち掛けてきました。
A子は明るく人付き合いが上手な自慢の友人です。だからこそ、顧問の先生や後輩たちから好かれている。
「このままではA子が部長に選ばれてしまう!」と思った私は、「彼氏のためならしょうがないよ、1年に一度しかない誕生日だし部活のことは気にせず、バイトを優先して」と彼女の部活出席率を下げるよう仕向けました。
ひとつ不安が消えたように思いました。(まるでマクベスが友人バンクォーを手にかけるように……)
しかしまだB子がいます。B子は掛け持ちで部活をしており忙しく、出席率は良くなかったのですが、冬頃から急に部活に顔を出す日が多くなり、先輩たちと遊びに行くことも増えました。
「これはまずい、このままでは先輩方がB子の面白さやノリの良さに気づいてしまう。それに最近になってよく顔を出すようになったということは、B子は部長の座を狙っているのでは」と疑心暗鬼になりました。
そんな時、B子の留年が確定したことを聞きつけました。ここぞとばかりに私はB子に「単位を取るためにちゃんと授業に出た方がいい。先輩と遊びに行かないで早く帰ってレポート課題をやろう!」と彼女を説得し部活への参加を控えさせました。
――これで安心、すべてうまくいった。
新年度、私は晴れて部長になりました。正直な話、就職活動で特に役に立ったということはないし、前部長の信頼を勝ち得たということもなく、好きな茶菓子は予算の関係で買えずじまいでした。
――そんなの聞いてないよぉ~!
A子は副部長、B子は会計となり、私の拙い部長業務をとても助けてくれました。2人とも部長になりたいとは1ミリも思っておらず、すべて私の妄想であり、嫉妬や不安が作り出した幻だったのです。
そしてこの後、私は部長として“失脚”するのですが……。(まるでバーナムの森が動きだすように……)それはまた別の機会に。
これが私の『マクベス』です。
マクベスは勇猛果敢な武人ですが、きっと弱い人間でもあり、王座というものが手に入る可能性を知った時、不安や嫉妬に襲われ世界が歪んで見えてきたのではないでしょうか。尊敬していた王さま、ともに激戦を駆け抜けた友人、その他の人々が皆歪んで見える。まさに“悪夢”です。
私たちもそんなマクベスを心に飼っているのではないかと思うのです。
悲劇というものは、恐怖、苦悩、不安などの感情を描くことで、観客の心にもその感情を呼び起こし浄化する効果があると言われています。
私たちの作り上げる『マクベス』という悲劇が、皆さまの心の中のマクベスを表に引き出し、浄化することができたらと願っております。
さあ、稽古だ稽古! 稽古に励むぞ!!
来年2月、劇場にてお越しをお待ちしております。
有村友花
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劇団 山の手事情社 二本立て公演
『オセロー』『マクベス』
日時=2025年2月21日(金)~25日(火)
会場=シアター風姿花伝
詳細は こちら をご覧ください。