稽古場日誌


葵上[あおいのうえ]は『源氏物語』に登場する人物で、光源氏の最初の正妻です。
能の「葵上」はこの人物にまつわる作品になっています。
しかし、主人公は葵上ではなく、光源氏の愛人であった六条御息所[ろくじょうのみやすどころ]で、この六条御息所が嫉妬や恨みに駆られて病床の葵上を生霊になって取りつこうとするが、祈祷によって追い払われる、というストーリーです。
肝心の葵上は役者が演じるのではなく、舞台前方に置かれる着物の小袖で表現されます。
それなのになぜタイトルが「葵上」なのか、とても引っ掛かります。主人公である「六条御息所」でいいじゃないか。なぜ??
気になって調べてみると、なんとなくその理由がわかりました。
実は一番苦しかったのは葵上なのではないか、ということです。
六条御息所にとって、正妻で光源氏の子を身ごもった葵上は幸せに見えたのかもしれません。
しかし、葵上は子を身ごもったにも関わらず、光源氏からの寵愛をほとんど受けていません。
私は六条御息所と葵上は対照的な2人だと思っていました。でも実は鏡写しの存在なのではないか。
2人は共に気にかけてくれない光源氏を責めるというよりも、愛されなかった自分がいけないと自分を責めているように見えます。
葵上は同じ境遇にいた六条御息所に自分を重ねていたのかもしれません。
つまり能の「葵上」は葵上のビジョンなのではないか。そう思うと、タイトルの意味に納得ができたのです。
この話は深い。
我々の『葵上』も深いところにいきたい。
谷 洋介
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劇団 山の手事情社 公演『葵上』
日程=2026年3月3日(火)~8日(日)
会場=小劇場B1
詳細は こちら をご覧ください。