稽古場日誌


こんにちは。鍵山大和です。
唐突ですが僕が中学生の頃、家族がよく僕を “見かけた”といっていた。
ある時は中学の前の横断歩道で、ある時はスーパーの鮮魚コーナーで、ある時は父の机の下で僕がうずくまっているところを見たそうだ。でもその全ての時刻に僕はその場所にはいなかった。
彼らが見たのは一体何だったのだろうか、僕によく似た人だったのだろうか。からかっているのか、嘘をついているのか。その時の僕は全く信じられなかった。
しかし今思うとあれは僕の生霊だったのではないだろうか。中学生といえば思春期、思春期といえば悩みが尽きないものである。勉強はできない、歌も音痴、何をしてもそこまで目立つわけでもない、好きな女の子に相手にされない。劣等感や疎外感、態度には出さなかったが、当時の僕には生霊が生まれてもよいくらいの禍々しい感情が渦巻いていた気がする。しかし現れただけで特に何もしないというのが僕の生霊らしい。
能の「葵上」は「源氏物語」を題材にした作品で、生霊が登場する。主人公である六条御息所[ろくじょうのみやすどころ]の生霊だ。彼女は身分が高く非常に文化的であり、光源氏の愛人であった。光源氏の正妻である葵上への嫉妬から生霊となってしまい葵上に取り付いてしまったのだ。
僕は六条御息所がとても気の毒だと思う。なぜなら六条御息所は葵上に対して呪おうとして呪ったわけではない、光源氏への想いも周囲に愚痴っていたわけではない。
嫉妬をむき出しにすることもなく、実に我慢強い女性だったのだ。
生霊は彼女の光源氏に対するとびきり大きい想いと、とんでもない忍耐力を持っていたから生まれてしまったのだ。
そんな彼女の生霊は思春期の僕の生霊なんかとは比較にならないだろう。きっとそよ風と竜巻くらいの差があるだろう。彼女の愛情や嫉妬はどれだけのものだったのだろう。また、彼女を取り巻く社会はどのようなものだったのだろうか。
この「源氏物語」の世界を立ち上げ、六条御息所の生霊を舞台上に出現させることができたら、それはとんでもなく面白いことだと思う。そのためには色んな角度からアイディアを出し合って、作っては壊し作っては壊しの積み重ねが欠かせないと思う。
『葵上』絶賛製作中でございます。是非劇場で見ていただけたら幸いです。
鍵山大和
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劇団 山の手事情社 公演『葵上』
日程=2026年3月3日(火)~8日(日)
会場=小劇場B1
詳細は こちら をご覧ください。