稽古場日誌
葵上 ニュージェネレーション 2026/02/28

目は口ほどに物を言います。
『葵上』の稽古見学最終日、その夜のスタジオの重い扉はひときわずっしりと感じてドアを開けると同時にわっとむせ返る様な空気に押し倒されそうになりながら入室しました。スタジオ内では演出家の指導を受けるシーンの俳優を中心に所狭しとあちらこちらで各シーンの稽古が行われています。見学場所の確保におろおろしている私をよそに俳優達のその目は時に喜びを時に怒りを時に哀しみを時に楽しみをたたえながら繰り返し繰り返し何かに語りかけています。
見学初日の1ヶ月前と比較して、演出家と俳優達の顔の輪郭は明らかにシャープになり目が際立って見えます。同様に研ぎ澄まされた感性がグサグサと自身の胸に突き刺さって来る様な気がします。これも連日休みなく長時間にわたって行われる激しい稽古を物語っているのでしょう。
対する4人のニュージェネレーション見学組はただただじっと見つめます。感じた事をメモに取ります。折しも当日に行われた通し稽古では本番さながらの舞台を間近に見られる贅沢な時間でもありますが、一方では細かな動作やセリフ使いや表情はそのシーンに合っているか否かの判断が私にはとても難しくて、せっかくの勉強の機会も虚しく1人の観客になってしまう残念な私がいました。
貴重な見学を通して、スタジオ内には実に多くの目が存在している事に気付きました。山の手事情社主宰と劇団員そして準劇団員の目、『葵上』を演じる演者としての目、作品のさらなる高みを目指す演出家と支えるスタッフの目、目には見えざる物語の登場人物の目、来週に迫った公演を待つ観客の目、心の目。
クライマックスで『女人源氏物語』「葵」名越未央さん演じるいまわのきわの葵上が笑みをたたえながら静かに回想しつつ本心を語る、それまではベールに包まれ決して人を寄せ付けない葵上の表情が変わる、私にとって最も印象的な場面でした。気高く装っていた目が穏やかな素直な目に戻り、物の怪が離れていくさまに目頭が熱くなりました。
最後に少し話が逸れますが、
魂の安らかであれかし
時代が変わっても魂の平穏を願ってやまないのが人間です。
稽古場日誌を書きながら、先日読んだ日経「私の履歴書」連載中の写真家大石芳野さんの記事が私の中でリンクしました。まなざしは魂を見つめて、それは安らかに浄化していく。葵上も六条御息所も遠く安らかな魂に目を向けて心の安寧を求めていたのかも知れません。
目は心の窓
目は心の鏡
目は……
熊木真智子
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劇団 山の手事情社 公演『葵上』
日程=2026年3月3日(火)~8日(日)
会場=小劇場B1
詳細は こちら をご覧ください。