稽古場日誌

タイタス・アンドロニカス/女殺油地獄 安部 みはる 2015/09/12

「タイタス・アンドロニカス」とテロリズム

『タイタス・アンドロニカス』は1999年の初演から15年に渡り再演を繰り返してきた山の手事情社の代表作だ。
初演以来、ドイツやルーマニア・シビウ国際演劇祭で上演し、高い評価を得、2010年に東京凱旋公演を行っている。

『タイタス・アンドロニカス』はテロリスト誕生の物語である。
私たちはそう読むことにした、と安田はいう。
物語に近付き、入り込み、浸かるために、テロリズムについて調べてみることにした。
まず、図書館へ。
フランソワ=ベルナール・ユイグ著「テロリズムの歴史」
ロレッタ・ナポリオーニ「イスラム国 テロリストが国家を作る時」
どうやら関係のありそうなこの2冊を発見し、読むことに。

テロリズムという言葉は、18世紀のフランス革命期の「恐怖政治(テロル)」に由来する。
現在の意味で使用されるようになったのは19世紀末になってからだ。
まず、テロリズムの定義とは。
「非合法の組織がイデオロギー的な意図を持って、象徴となる標的を襲撃すること」。
しかし、国連加盟国の多くは定義づけを拒否している。なぜなら、テロを支援していたり、自らの国の過去に関係がある国が多いからである。
テロリズムとは、行動が先にあって、誰がなんの目的で起こした襲撃かを明らかにし、対象に脅威を示す。場合によっては目的が達成され、新しい政権や国を勝ち得たりする。

しかし、暴力という手段を用いる以上、非常に多くの犠牲者を出す。
最初のテロリストと言われているのはロシアのヴェーラ・ザスーリチだ。警視長官を狙撃し、負傷させた。
ただ、恐怖を与えるというより、正義を実行するための行動だった。
その後ダイナマイトの開発により、駅や列車、ホテルなどの爆破に発展、力の弱い人間でも前代未聞の破壊活動を起こせるようになった。

何のために人を殺すのか。
政治を変えるため、独裁政権を終わらせるため、民族の理想郷を作るため、お金のため、宗教のため、野生動物のため・・・。
今も世界中で、何らかの主張のために爆弾が炸裂し、多くの人間が殺されている。
自分が誰の、何の恨みで殺されるのか、納得のいく答えは聞くことができない。

日本人も例外ではなく、世界に衝撃を与えるテロ事件を起こしている。
大きくはこの2つ。1972年、日本赤軍によるテルアビブ国際空港襲撃と1995年、オウム真理教の地下鉄サリン事件だ。
日本赤軍は生還を期待しないで乗り込む、「カミカゼテロ」として、その後の自爆テロの草分けとなり、地下鉄サリン事件は化学兵器を使用した世界初のテロとなった。

そして現在、個人や小さなグループによる新しいテロリズムが広がりつつある。
普通の市民として生活を営んでいる個人が「突然、復讐の念に駆られて、衝動的に」行動を起こすのである。
予測が難しく対策を立てにくい。
秋葉原の通り魔事件や、東海道新幹線の焼身自殺も身近にあるテロ事件だ。
すぐ近くにいる人がある時テロリストに変貌する。
翻って、自分がふとしたきっかけでテロリストになる可能性も十分ある。

遠い外国で起こっている、ニュースでしか目にすることのないテロ事件もそう考えると身近に思え、復讐が復讐を呼ぶ悲劇『タイタス・アンドロニカス』が現代に重なり、恐怖で背中が寒くなるのを感じる。

安部みはる

稽古場日誌一覧へ