稽古場日誌

ニュージェネレーション(体験談)研修生 2011/03/31

年間ワークショップ参加者の体験談/鯉渕 翼

正直研修生稽古は厳しかった。
体力づくりに川原を走ったり、腕立て腹筋背筋などの各種筋トレとか体作りはわりと耐えられる。
しかしエチュード、《山の手メソッド》と呼ばれるものが曲者で、終わりのないアイデア合戦だった。
数回やればコツがつかめてきてなんとかやれるのだが、どうしても最後まで苦手意識を残してしまったものがあった。
たとえば《脱出できない空間》。
外に出ることのできないある空間に閉じ込められた自分たち、メンバーは何とかその場に適応しようと行動を始める。
すると自分か誰かが何がしか理由をつけて空間の外に出ようとする。
それをまた自分か誰かが上手い理由でもって引き止める。
ただこれだけなのだがこいつが難しい。
なぜなら普通の理由つまり面白くない理由では脱出することも引き止めることもできず、 しかもそのままではいつまでも終わることがない。

どんなものかと一例を挙げるなら、私は寒いので火をおこしたい、ライターが外の車に置きっぱなしなので取ってくる。
と誰かが脱出を図ったら普通どう引き止めるだろうか。
我慢しろとか私が持ってるとかだろうか。それじゃあいけない。
大丈夫私は火が吐けますだの爪が火打石なんですだの火をおこせるほど熱い視線を送れるだの今日まで隠してきたけど私は火の神なんですとかそんな風なぶっ飛んだモノじゃなきゃいけない。
これだってOKが出るとは思えないくらいだ。

常識にとらわれていては脱出できない。
まず自分の本来の面白さにいつの間にか絡み付いて思考を貧弱にする常識から脱出しなきゃいけない。
非常に困難な脱出だ。いまだに脱出しきってないだろう。
それを思い知るきっかけと脱出訓練にはたしかにもってこいだと思った。
しかも持ちネタなんてそんなにあるはずもなくしかもうけるとも限らず大抵の場合はその場でネタを瞬時に思いつくより他にない。
その瞬時にネタを思いつくための稽古でもあるのだが、終わりのなかなか訪れないその空間はまさしく《脱出できない空間》。
しかも立ちはだかるエチュードはこれだけのはずもなく、私の脳内新ネタ研究開発課はいつも爆発寸前だった。

2010年度研修生 鯉渕 翼

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