稽古場日誌

燦燦と淡淡と研修生 大久保 美智子 2016/03/04

壮大な無駄な汗

春ですね。この季節がやってきました。
年度末、山の手事情社では研修生修了公演の時期であります。

研修生の彼らは「今年一年間は山の手事情社で」と選んできたわけです。
勇気ありますね。山の手事情社は演劇界でも相当レアですし。
いい若い者や、老年期をむかえようとするいい大人が目指してくれるのは嬉しいです。

昨年、私は研修生の担当でした。
担当俳優が一年間研修生と稽古を共にし、修了公演を演出するというシステムは、集団創作の山の手事情社ならでは。
シーンを自分たちで創るから公演一本でもなんとかやれてしまう。
こんな風に研修生を育て、同時に劇団員を鍛えるのは日本広しといえども、ウチくらいなのではないでしょうか?
担当はその一年間の全責任を負います。どんな教え方をしても自由。そのかわり修了公演と研修生に対して責任を持つ。
そのプレッシャーたるや半端ないわけです。普段シーンは作っているものの、全体の演出は安田がしますし。未来ある研修生の、下手すれば演劇への入り口をナビゲートしちゃうことになるので、何というか、無駄に演劇を背負った気分になるのです。
自分が出演する本公演の稽古と、研修生の稽古が重なった時などは… あれれ? 休みがない!? 事務所の隅で30分だけ寝かせてくれ〜 と横になり、18:00と同時にランニングに飛び出す、そんな一年を過ごしました。
そんなに大変なら少し手を抜いてもいいのではと思うが、なんだろう、演劇魂? なのか? なぜだか手を抜けない。手を抜いている担当を見たことがない。

担当はこの時期になると、青ざめ、げっそり頬もこけ、それなのに眼光はギラギラで妙にテンションが高い、そんな危ない状態になる。
今年度担当の斉木くんもすでにMAX状態のようだ。
今年は気楽だからこう思う「いいぞ〜 もっともっと悩みやがれ! それが本当の幸せなのだ!」
その時期は、一生分の心と脳ミソを使い抜いた、と思うほどにやるのですが、どれだけエネルギーをかけても、演劇とは儚い。一瞬で消えてなくなります。

無駄は悪、とまでいわれるようになってしまったこのご時勢。こんなにも無駄な作業に没頭している集団があって、その一番コアなところを見られる公演が間もなく初日を迎えるとあれば、観ない法はないと思うのです。

大久保美智子

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2015年度研修プログラム修了公演「燦燦と淡々と」
日程=2016年3月10日(木)〜13日(日)
会場=シアターノルン
詳細はこちらをご覧ください。

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