稽古場日誌

ワークショップ外部活動 大久保 美智子 2016/10/11

LOOP⑩秋の創作ワークショップ発表会「ロミオとジュリエット」 リポート

岡山へ行ってきました。
「ロミオとジュリエット」を地元の方々と作ってください、サイズは20分、稽古は3日間、最終日に発表会をやります、という無謀なオファーをいただいた。
「ロミオとジュリエット」。言わずと知れたシェイクスピアの超メジャー純愛悲劇。久々に読んだが、こんなに盛りだくさんだったっけ? 一つ一つのエピソードに人生の縮図が隠されていて、さすがシェイクスピアと唸る。とても20分にまとめられる気がしない。考えるのを放棄して岡山上陸の日を待った。
顔合わせの日。なんという多彩な顔ぶれ! 下は中学1年生から、上は50歳を越えた大人の方まで。バリバリの経験者から、今年の夏初舞台を踏みました、という方まで。
居るだけで人の歴史が感じられる佇まい、その顔々を見て、テーマを「家族」にしようと決めた。人間の集団の最小単位「家族」。その対立を解消するために、それぞれの「家」の最愛の息子(ロミオ)、娘(ジュリエット)を生贄にしなければならなかった。時代は下っても憎しみ合う集団対集団はいつも私たちのテーマである。依然、生贄なしで和解の道を選択できるほど、人は成長してはいない。

「自分の親に対してむかついたことを話してください」
と、初めてなのに無茶だなぁと思いながら、お題をぶん投げてみる。
すると出てくる出てくる、日常の膿が…。
中学生たちの「今やろう、と思ってた時に、勉強しなさい、って言われる」という、誰でも経験のあるカワイイものから、家族の介護で味わった壮絶な痛みまで。話すのに勇気が要ったことだろう。しかし自分では「人さまに話すことじゃない」と思っていても、演劇的にはものすごく美味しいネタである。そして話すことでなぜか浄化されるような気がしてくる。不思議なものである。

そのネタの豊富さは、ショートシーンでも発揮される。やはり「家族」のお題で作ってもらったシーンでは、一組は熟年再婚のお話し(それぞれに娘がいる熟年カップルがひとつの家に住み始めるが、ちょっとした習慣の違いでいちいち衝突が起こる)、もう一組は長女につい厳しくあたってしまうお母さんのお話しで、二組ともよくできていた。
私のショートシーンを評価する基準の一つに、ひとりの脚本家の頭の中だけでは書けないもの、ということがある。実話を掛け合わせるからこそのディテイル、みんなで話し合ったからこその多面性。テーマは一般的でも構わない、そこに演者の日常や、生き方や、そのユニークさが滲み出ていないとイヤなのだ。二組とも「ちゃんと話し合ったんだな」ということがよく分かる出来だった。
簡単に「話し合ってつくる」と言うけれど、それは相当難しい芸当である。特に今回はメンバー同士もほぼ初対面である。年齢も、自分のお母さんお父さん、自分の娘息子のような開きがある。つい遠慮して意見を引っ込めたり、相手の意見に「何が面白いのかわからない」という態度でいては、一つのシーンはできあがらない。保身に回らず、作品の為に恥をかく覚悟が要る。その点、両組とも気持ち良いほどに自分を開けっぴろげてくれた。

「親に対してむかつくこと」と「家族をテーマにしたショートシーン」を柱に、というところまで来たが、ロミオとジュリエット感を出すために、戯曲をほんの少しだけ使いたかった。だがここで思わぬトラップが。私が使いたかった翻訳を、誰も持っていなかったのである。岡山には白水社の本が売られていなかったのだ。全く想定していなかったこの事態に、私の心はテンヤワンヤ。劇団のように「大至急、全員分のコピーとって!」とはいかない。ここは岡山である。コピーに走ってくれる人もいない。方針を変えねばならない。
私「えーっと、では、ひとりがセリフを読むので、みなさんついてきてくださーい」
ひとり「おお、ロミオ、ロミオ」
皆「おお! ロミオ! ロミオ!」
お、なかなかいい。これなら戯曲を見なくてもいいぞ。覚えなくてもいいし。
こんな調子で時間と闘いながらガリガリと進んで行く…。

稽古で出たシーンはみな面白いものであった。構成は何の工夫もなくただ繋げただけだが、すべてのシーンがうまくハマれば、イイものができるはずだった。だが私の詰めが甘かった。狙ったラインまで到達できなかった。
これには私も少し凹んだ。なぜ詰めなかったのか? 時間がなかった、稽古できる場所がなかった… 言い訳はいくらでもできる。しかし、終わってしまったのだ! 発表会をやり直すことはできない。こういう時「映画はいいよな、撮り直せるんだもん」などと拗ねてみるのはお約束である。(映画だってそう簡単に撮り直せる訳ではないことは分かっております。)演劇とは本当に残酷だ。しかし、だからこそ、強い輝きを放つことがあるのだ。そう考えると、私たちは毎度奇跡のようなことをし続けなくてはならないのだなあと、改めて自分の仕事の過酷さと尊さを思う。
やはり面白い仕事だ。精進しよう。

そうして怒涛の3日間は過ぎました。
岡山に呼んでくださった米谷よう子さんとLOOP⑩の皆さん、関わってくださったみなさん、ありがとうございました。
最後に「桃太郎推し」が凄すぎて、町を素通りできなかったことを付け加えておきます。いたるところに桃太郎、犬、猿、雉の像。マンホールの図柄は全て桃太郎、しかも数種類。「町のレンタル自転車 ももたろう号」、「献血ルーム ももたろう」、ホテルには「私たちのおもも(桃)てなし」ポスター…。この気合に岡山魂を見ました。

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