稽古場日誌
ここ近年、大田区で「出前演劇ワークショップ」が増えてきた山の手事情社ですが、今までとはちょっと違う「出前演劇ワークショップ」のリポートをしたいと思います。
向かった先は、大田区立馬込小学校の4年1組。授業時間の一部を演劇ワークショップにあてて、計3回実施されました。メインメニューは寸劇創りです。6名前後で1チームになり、チーム内で話し合って寸劇を創ります。最終回は、大田区の他小学校の先生方も研修ということで見学にいらっしゃり、 ミニミニ発表会をおこないました。
これまでにも小学生を対象としたワークショップはありましたが、「演劇ワークショップをやりたい人」が集まっておこなうものと、今回のような「授業の一環」でおこなうものでは、参加するメンバーの意識が異なります。 「授業の一環」=クラス全員が取り組む、ということです。活発に意見を言う子、なかなか言えない子、友達の意見を上手にまとめてくれる子、すぐにあきて友達とじゃれる子、大人しいけれど発表のときには良い演技を見せる子、などなど。自分が子供の頃を思い出してもそうですが、色々なタイプのクラスメイトがいるのは、今の子供たちも一緒です。まだまだ幼い部分もありつつ、時々大人のような恥じらさをみせたりと、なかなか複雑なお年頃です。
創作は、1チームに1名の講師がつき、様々な意見に耳をかたむけ、取り入れながら進行していきます。この創作時間は傍目から見れば、授業というより休み時間のようなワーワー、ギャーギャー大騒ぎでカオスな状態ですが、実はチーム内では様々なレベルの格闘や葛藤があるわけです。 私たち講師も含めた大人はどうしても結果や成果を求めがちですが、こういった創作時間こそ、人間関係の複雑さを知ったり、自分や友達の新たな一面が見えてくる有意義な時間なんだなと感じ ました。
創作した寸劇を一度発表して、さらに手直してしてミニミニ発表会を行ないました。最初の発表では、活発な子は変わらずにグイグイ引っ張っていますが、大人しい子やちょっと戸惑っている子は陰にかくれがちでした。しかし創りなおした後のミニミニ発表会では、陰に隠れがちだった子たちも寸劇の中での役が明確になってしっかり演じることができ、劇全体がとてもよくなりました。これには担任の先生も驚いていました。
私が個人的にグッときたのは、ウサギを登場させたチームでした。もちろん本物のウサギを登場させるわけにはいかないので、セロハンテープの台をウサギに見立てていたのですが、台を抱いた仕草で「あ、ウサギだ!」と瞬時に分かったのです。セリフでの説明ではなく、身体で想像させるというのが、とても演劇的で魅力を感じました。 他にも、実際には用意できない小道具や大道具を教室にあるもので代用する工夫が見られます。イスを並べて大浴場に見立てたり、床にテープを引いてプールにしたり。劇中で料理を作るチームもありました。せっせとおにぎりを握っている子たちがいる中、一人イスにグダ~と座り、途中から他の子と相撲のようなことをして、全く料理をしない子がいます。全員が同じことをするではなく、劇の中に他メンバーと別な意識を持った人がいる空間がそこにはあり、それは演劇としてはとても深みが出ることだと思いました。ウサギの子も、イスにダラ~の子も、実は話し合いの段階ではあまり貢献できていなかったようなんです。でも、演技では光っているというのがとても印象的でした。演劇ができる不思議で面白いところだなと感じたのでした。
またどこかで会おうね! 馬込小学校4年1組のみんな!
小笠原くみこ