稽古場日誌

外部活動 大久保 美智子 2017/06/21

身体の景色「焼け跡のエレクトラ」に出演して

写真:Ryo Murayama

大久保です。5月の末に「身体の景色」という劇団へ客演してまいりました。
ご来場いただいた皆さま、ありがとうございました。
応援してくださった皆さま、ありがとうございました。
そしてお世話になった座組の皆さん、ありがとうござました。

顔合わせは1月の末だったか、2月の頭だったと思います。約4ヶ月間の長丁場でしたが、1ヶ月前までは週1回のお稽古でした。
この週1稽古が、思ったより過酷でした。
稽古は月曜日だったのですが、せっかく月曜日に、何か分かったとか、役の感覚がついてきた、となっても、その後の残り6日間ですっかり飛んでしまうのです。日常のからだに戻ってしまいます。下手したら段取りや気持ちの流れなんかも忘れてしまいます。
「その時に掴んだもの」と「一旦掴んだものを再現しようとする」は全く別のことで、掴んだ時には確かに息づいていたものが、次の稽古ではすっかり消えている…。そんなことが何度もあり、途方にくれました。
かと言って残りの6日間、全く役のことを忘れている訳ではなく…、常に背後霊的について回り、どこで何をしていても何となく気になっている、という精神的便秘状態、スッキリしない状態にありました。

5月の中盤、やっと毎日稽古ができ、バイトも休んだ、となった時は小躍りしました。わーい! 遠慮なくドップリハマれるぞ〜! これが私の本来の仕事です! えへっ♡ しかしこの絶好調状態は1日で終わり、次の日からは「起きるのが辛い…」「からだがだるい…」、普通に心身は疲労するのでした。
通常の稽古の演出は主宰の岡野さん、全体的なバランスをドラマターグの田中さんが担当されていました。
岡野さんは元SCOTの俳優さんです。若い頃「リア王」での岡野さんの「エドマンド」をきゃーきゃー言いながら観ていました。私たちだけの間で岡野さんを「殿下」と呼び、枯れ気味の利賀での生活を無理やり潤わせていたものです。
そんな岡野さんが今や「仙人」となられ、演出をつけてくださる。
最初はとても緊張しました。
岡野さんの演出は、役者への視聴率が非常に高いです。これはやはり鈴木スタイルなのでしょう。私と一緒に呼吸しながら見ていてくれるので、ダメ出しは非常に分かりやすかったし、私の弱点を的確に突いたものでした。「人間てのは、これだけ一所懸命見てくれる人がいれば、とにかくがんばれるものだな」と思いました。

きっとそうだろうけど、自信がもてなかった考え方、というのが私にはありました。それは「俳優のからだが感じたことはお客さまに伝わる」というものです。
私は、そうであったらいいなと思っていましたが、それがうまい俳優さんならお客さまも感じるだろうし、ダメな俳優なら難しいだろう、とも思っていました。
しかし岡野さんは「呼吸や皮膚感覚や毛穴の開きなんかを、自分が感じてさえいれば、お客さまに伝わる」と自信を持って言われました。仙人が言うので私も信じてみることにしました。結果を言うと、岡野さんの言う通りだったと思います。
もちろん私の感覚そのままをお客さまが感じてくださるわけではありませんが、「何かが起こっている」という感じは受け取っていただけるようでした。
肝心なのは「自分が感じていることを自分が見逃さない」ということです。冴えない演技というのは外側ばっかりやっていて自分をないがしろにしている状態なのです。

小難しいお話しかも知れませんが、私は、人が感じる幸せって、自分の感覚を自分で感じられることと切り離せないと思っています。自分をないがしろにすることが減れば、世界はもうちょっと良くなるはず、と何だか分からない自信を持っています。
演劇はその「もうちょっと良い世界」に貢献できる。そんなおぼろげに思っていたことを、岡野さんは信じさせてくれたように思います。

「身体の景色」から、間もなく始まる「班女」まで1ヶ月しかなく、途中「何で受けちゃたんだろう…」と後悔したこともありましたが、この気づきを得たことは私の中では大きく、必ず「班女」に生きると思っています。

大久保美智子

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