稽古場日誌

ワークショップ 小笠原くみこ 2017/11/10

社会人新プロジェクト

だいぶ時間が経過してしまいましたが、2ケ月半ほど前に終えた、プロジェクトのことを書きます。

これまで山の手事情社では、2010年から30歳以上の方を対象にワークショップを開催しておりました。色々試行錯誤を重ね、もう少し上を目指したプログラムを実践してみてはどうかと思い立ち、それまでのワークショップに何度も参加してくれた一部のメンバーを集い、「公演をうつ」ということを目的にプロジェクトを立ち上げてみました。一応「社会人新プロジェクト」という仮名称にしていますが、正式プロジェクト名を思案中です。
いきなり公演ではハードルが高すぎるだろうと考え、3年かけて進めることにしました。2ケ月半前におこなったのは、2年目の集大成の発表会。演目はシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」。10名が出演しました。

結論から先に言いますと、「演劇って、こんなに大変なのね」と改めて思い知らされました。
出演しているのは、普段お勤めしていて、演劇経験がほとんどない方ばかり。
セリフを覚え、自分の役やセリフに込められている感情を考察し、声に感情をのせてしゃべる。これだけでもすごく大変な作業です。でも、これだけではお芝居になりません。相手役が話したことや、セリフにはなっていない隙間の感情を受け止め、自分に何かしらの影響が及んで次のセリフの感情になる、というやりとりの流れを作る。独りよがりでセリフを言わない、ということがとても難しいのです。たとえそれが、長い独り言だったとしても、空想の中にある誰かや何かに言っているわけで、それを作り出し、それを観ている人に分かるように言葉や身体に表していく作業。舞台に立つということは、1つのことだけに集中していては成り立たないんです。

残念ながらと言うのか、社会で生きていくためには、相手の発信した言葉以外のことをある程度スルーし、自分の個人的感情を捨て置かないと、何も前に進まないってことなんだと思います、経済重視の世界では。そういう状況に身を置いている時間が多い社会人である参加者は、上記のことがとても難しい。(劇団員になりたての俳優でも難しいですが。)
だからこそ、今回のプロジェクトは意味があると、私は思っています。日常とは違う演劇だからこそ必要な感覚が、日常ではどんな風に必要なのか。それを身を持って知ってほしいと思いました。
先日、次の活動に向けて、ミーティングを開きまして、そこで発表会をやってみてどうだったか、改めて参加者の言葉を聞く機会がありました。
「勝手に自分の限界を決めていたことに、終わって気づいた」
「普段から他人にもっと興味を持って接しないといけないと思った」
「戯曲を使って舞台を作るのは、その世界を探求していく作業なわけで、普段生きている風景とは違い、どんどん新しい世界が見えてきて興味深く感じた」
そうなんですよね。私たちは、案外決めきった世界にしか生きていなくて、その中で必要なことしか感じていないってことなんだと思います。けれどもそれは、自分で自分を窮屈にして、固定観念から抜け出せなくなっているんだと思います。
演劇を通じて、もっと新しいことに向き合っていきたいものです!

参加者が色々思うところがあったと同時に、私の演出作業もたくさん反省することがありました。それこそ独りよがりだったと思うことが、時間の経過とともに見えてきて、モンモンとしています。3年目に向けてどうするのか、現在悩み中です。
ぜひ、このプロジェクトも応援をよろしくお願いいたします。

小笠原くみこ

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