稽古場日誌

ぺとりこおる 武藤 知佳 2018/01/26

落とし穴

現在、研修プログラム修了公演『ぺとりこおる』に向けて絶賛稽古中です。
公演のテーマは「熱中したこと」「忘れていたこと」です。
どんな作品になるのか、ご期待下さい。

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落とし穴は気がついた時には落ちているものである。

繁華街で食事処を探して歩いていたら、人当たりのよい胡散臭いおっちゃんが突然話しかけてきた。
基本的に疑り深い私はいつもならこの時点で完全シャットアウトなのだが、ちょうど調べていたお店が満席で『あーあ』と残念な気持ちでさまよっていたこともあり、ふと応答してしまう。

「おいしいお店教えてあげるよ」
そのおっちゃんは言う。
ここまではこれまで出会ってきた胡散臭い人たちと変わりないのだが、しかし続けておっちゃんは言うのだ。
「場所だけ教えてあげるからさ、あとは自分たちで決めてよ」
とある店の前まで案内してくれた。そして、特にその店をゴリ押しするわけでもなく、「じゃ!」と去っていくのだ。
おっちゃんのこの行動で私の中で感じていた胡散臭さに霧がかかりはじめた。
『あの人はこの店の人ではないらしい』ということは『案内してくれたのは自分の儲けのためではない』ということは『善意で情報を教えてくれたに違いない』
おっちゃんは胡散臭く見えたけど本当はそんな人では無いとなぜか思えてきたのである。
そして私はその小汚いお店に吸い込まれていった。

その後はスペシャル価格の席代やらお通し代やらが加算され、痛い目を見たことは言うまでもない。

『一体このおっちゃんは何のために街をうろついていたのか』
『何のつながりもない私たちに善意で店を教えてくれるほどいい人そうにはやっぱりみえなかったぞ』
考えれば考えるほど、引っかかった自分に突っ込みどころ満載なのだが、おっちゃんの些細なひと工夫にやられたなぁと思う。

その日は本当に心身共に気分が悪くなり、胃薬を飲んでふて寝してやった。『あーあ、こんな嫌な気分になったのは、久しぶりだな』と。

そう、前にも1度飲食店のキャッチで、とても嫌な気持ちになったことがあったのである。
学生時代、当時の恋人と歌舞伎町を歩いていた時。
久しぶりのデートでウキウキワクワクしていた気持ちを物の見事にへし折られた思い出がある。
2人の間に何とも言えない空気が流れていた。
あの時、『もう2度とキャッチには引っかからない!!』と固く心に誓ったはずなのに。
そして、その後何年もこの決心を頑なに守ってきたはずだったのに!!
不当なお金を支払ったこと以上に何か納得いかないモヤモヤがあったのは、もう2度と落ちないと心に誓った落とし穴に見事にハマってしまったからだと思う。

はぁ〜、それにしても高くついたな、2度目のお勉強代。

武藤知佳

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2017年度研修プログラム修了公演「ぺとりこおる」
日程:2018年2月21日(水)~25日(日)
会場:大森山王FOREST
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2018年度研修プログラム「俳優になるための年間ワークショップ」
オーディション開催中
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