稽古場日誌

テンペスト(2018年) 谷 洋介 2018/03/21

尊い時間

年齢のせいもあるかもしれないですが、ふと稽古の時間がとても尊い時間に思うことがある。
毎日のように稽古をしていると、稽古場にみんなで集まって稽古をすることが、毎朝起きたら顔を洗って歯磨きするようにごく当たり前のことに思えてくる。
でも今回の座組で「テンペスト」を上演するのは、間違いなく今回限りである。
劇団にいるとまた次もある、という感覚に陥りやすいのだが冷静に考えるとそんなことはない。
また、たいていの人が世のため人のために汗水流して働いている時間に、僕らは稽古場に集まり、シーンを面白くするためにああでもないこうでもないと真剣に、ときにはふざけながら話し合ったり、身体をぶつけあったりしている。
セリフの言い方はもちろんのこと、顔の角度は正面がいいのか少し正面からずらすか、足の開き方は肩幅くらいかもっと開くか、などなど、本当に微妙なことに時間を費やし、悩みながら芝居を作っている。
この労力は、世のため人のためになっているかといえば、おそらくなっていない。
芝居を観に来て下さるお客様のためにはなっているが、それ以外の人たちにとっては本当にどうでもいいことに頭を悩ませているのである。
そんなことを考えると、僕はいま一体なにをしているのだろう、という思いになる。
なんでこの稽古場にいるんだろう、と。
でもこの芝居は今回限りで、しかも劇場に足を運んでくださるわずか数百人のお客様だけのために芝居を作っているのは、“今”だけであり、今回のメンバーで演じるのも“今”だけだと思うと、稽古の時間がとても尊いものに思えてくる。
この“今”を劇場まで足を運んで観に来ていただきたい。
そしてお客様の生活が少しでも豊かになるように、さらにはご来場くださったお客様の周りの人たちまで豊かになるように、僕たちは幕が開くまで悩み続けたい。

谷 洋介

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劇団山の手事情社ヨーロッパツアー壮行公演『テンペスト』
(下丸子×演劇ぷろじぇくと2018特別企画)
日程=2018年4月12日(木)~13日(金)
会場=大田区民プラザ 大ホール
詳細はこちらをご覧ください。

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