稽古場日誌

テンペスト(2018年) 大久保 美智子 2018/03/23

テンペスト再び

3月に入り暖かくなってきたせいか、稽古場の湿気が凄いです。
ちょっと動いただけで窓ガラスは曇り、汗がタラタラ。
私はくせっ毛なので、ありえない方向に髪の毛が曲がって困ります。
ふと斉木くんを見ると、ひと風呂浴びたかのように髪の毛が濡れ、Tシャツもビショビショです。
これがシャワーではなく体液かと思うと、近寄りたくないなぁと思ってしまいます。

2015年に初演した「テンペスト」を再演いたします。
この作品にもう一度取り組めるのは嬉しいです。
「テンペスト」の主人公・プロスペロー老人は、ミラノの大公でしたが、策略にはまり人の住まない孤島に流されます。
しかし書物から魔術を得て、ついに妖精たちを従えて島の王になります。
最後には自分を追い出した政敵に復讐を果たし、なおかつ赦しを与えます。
戯曲上は誰も死にません。妖精さんが出てくるので、ファンタジー的に描かれることも多いこの作品。
主宰の安田は「なぜテンペストか?」 という私たちの問いに、こんな風に答えていたように記憶しています。

自分の父の死に際して終末を考えるようになった、テンペストで「終わり」を描きたい。

私自身、ここ数年、死を意識するようになりました。
残りの時間と自分のキャパシティが大体分かってきて、積んでいる燃料でどこまで行けるか、という考え方をするようになりました。
若い頃は可能性の荒野が無限に広がっていて、何をすれば良いのか分からず、ただジタバタし、未来だけを見ていたように思いますが、今は死の方から現在を見ているような気分です。
残りの時間で何を残せるかな。何を為しに生まれてきたのかな。
若い頃と比べて随分自由になったとも思うし、逆になかなか振り払えない狭っ苦しい自分にも出会います。

この劇の終景は大団円です。プロスペローは意気揚々とミラノへ帰国の途につくのですが、最後に「俺は絶望している」「俺を自由にしてくれ」と祈ります。
どんなに願いが叶っても、狭っ苦しい自分からは逃げられないのかしら。
分かる気がするプロスペローさん。でも貴方は赦したのだから偉い。
私は許せない物事が多くてそれだけで疲れます。
まだまだ若いって事なのでしょうか。
嬉しいような苦しいような気持ちです。

大久保美智子

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劇団山の手事情社ヨーロッパツアー壮行公演『テンペスト』
(下丸子×演劇ぷろじぇくと2018特別企画)
日程=2018年4月12日(木)~13日(金)
会場=大田区民プラザ 大ホール
詳細はこちらをご覧ください。

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