稽古場日誌
テンペスト(2018年) 小笠原くみこ 2018/03/26
海外公演をおこなう一番の醍醐味は、言うまでもなく、山の手事情社の芝居をご覧になったことがない、海外のお客様に観ていただくことである。
もう1つは、トラブルと言っても過言ではない。
海外公演では、その先々で必ず何かしらのトラブルがおこる。
どんなに日本で綿密に準備や打ち合わせをしても、トラブルがおきない海外公演はない。
いくつか、これまでに経験したトラブルをご紹介しよう。
・30㎝の台が欲しいと伝えていたのに、40㎝の台しかないと言われる。
・楽屋のハンガーが不足しているから、追加で欲しいと伝えたら、6時間後に出てきた。
・現地のスタッフにボイコットされて、仕込みが中断した。
・大雨で建物全体で漏電。
・リハーサルの前に掃除をしようとしたら、怒られる。
・知らない間にスクリーンが吊られ、こちらが用意した字幕と違う字幕が出る。
・開演時間が、劇場都合で押す。
・用意して欲しいとお願いしていた諸々の大道具の材料は、全く用意されていない。
・仕込み日の昼休み、現地のスタッフがビールを飲んでいた。
・そこそこの値段を支払って用意してもらった昼食の量が、びっくりするほど少なかった。
なぜ、トラブルは起きるのか。
それは、日本の常識は世界の非常識で、世界の常識は日本の非常識だからだと思う。こちらに非がない状況で、どんなにクレームを言っても、たいていそれは通らない。クレームを言うことをあきらめ、その状況下でなんとかするしかないと、奮闘が始まる。
こうした経験は、人としてのキャパシティを広げてくれた、と良きように解釈することにしている。私は私の価値観で生きているけれど、たとえ同じ日本人であっても、他人は他人の価値観があるんだと、改めて思い直すことができる、良いきっかけになっていると感じる。
日本で暮らしていると、どうしても同じ価値観やルールを求めてしまうし、逸脱した人を白い目で見て排除してしまう風潮があると感じる。
ルールや価値観は必要だけれど、もう少しおおらかに受け止めることが、現代は必要なんじゃないかなと思う。
「テンペスト」という作品は、主人公のプロスペローが、自分を追いやった人たちをゆるす物語である。
作品後半に、プロスペローの価値観がゆらぐシーンがあるので、ぜひ、観客の皆さまにも、ゆらぎながら、ご自身を見つめながらご覧いただきたい。
小笠原くみこ
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劇団山の手事情社ヨーロッパツアー壮行公演『テンペスト』
(下丸子×演劇ぷろじぇくと2018特別企画)
日程=2018年4月12日(木)~13日(金)
会場=大田区民プラザ 大ホール
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