稽古場日誌

テンペスト(2018年) 武藤 知佳 2018/05/28

一瞬を逃さないこと

私は今回のツアーで記録写真係をしていた。他の人の協力ももらいながら、カメラには13日間で2000枚以上の写真が撮りためられていた。

出国前、成田空港でカメラを構えた時には構図やら何やらちょっと気を使っていたのだが、撮り続けていくうちに、当たり前だが、「瞬間を逃さないこと」が一番大切であることに気がついた。「今だ!」と思った時にカメラを構えていなかったらもう手遅れだし、構えていたとしてもちょっとした躊躇があればタイミングを逃す。構図なんて、その瞬間によいと思うところに決めるしかない。一瞬の勝負だったりするのである。

劇団員といつもより長い時間一緒に居たから、ということもあるかもしれないが、ファインダー越しに今まで見たことのなかったいろいろな顔をみた気がする。仕込み中の真剣な表情やふとした時の優しい笑顔や先輩のやんちゃ顔など。写真を撮りためていくと、自分はこの人のこういう表情が好きなんだなぁとか、この人はこういう顔をしている時がとても魅力的だなぁとか。はたまた発展して、この人のこんな瞬間が撮りたいなどと考えてみたりもした。

また、クライオーヴァでは海外の作品をいくつか観劇する機会に恵まれた。語学が苦手な私にとっては、言葉が全然頼りにならない観劇だ。この動きにはどんな表現が込められているのだろう。物語の流れからして、きっとこんなようなことを言っているはずだ。ただでさえ言葉の壁がある中で、気を抜いてしまえば舞台についていけなくなり、容赦なく睡魔だって襲ってくる。当たり前のようにききとることができ、理解することができる言葉で観ている時よりも、観客として一瞬一瞬に真剣に向き合わなければいけない気がした。

そして、『テンペスト』のエンディングでの間髪入れない大きな拍手。「ここ!」ってところでのたくさんのお客様からの大きな拍手に、舞台に立っている側なはずなのに、お客様に感動してもらうはずなのに、感動させられてしまった。

帰国し、あっという間に日本の生活にも慣れてしまったが、何でもない日常の中に実はとても劇的な一瞬があるのではないか。そんな一瞬を探し求めながら、これからはワクワクしながら生きてみようと思う。

武藤知佳

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『テンペスト』ヨーロッパツアー報告会
■日時:2018年8月5日(日)15時~
■会場:大田区民プラザ 展示室
■料金:無料
■予約・問合せ:6月18日(月)予約開始
劇団山の手事情社
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TEL:03-6410-9056
MAIL:info@yamanote-j.org

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