稽古場日誌

今回印象深かったのは、ルクセンブルクでの出来事です。

ある朝、チビの私・ノッポの浦 弘毅氏・ポッチャリなエッシュ劇場の大道具係のおじさん、なんとも凸凹なトリオは、『テンペスト』の大道具の棺桶を作っていました。
現地の工場の一角をお借りして、ヤスリがけをしたり、ボンドを塗ったり。
細かい仕上げ作業で、危険もなく穏やかな時間が過ぎていきます。ジョークを言い合ったりして笑いがたえません。

「この棺桶は日本まで持ち帰るのかい?」
「税関で止められちゃうよ」
「ボートにすりゃいいんだよ、オールは角材を加工して……」
「じゃあ1本1,000EURで」
「地中海に出るべき? 北海に出るべき?」
とかナントカ。

その中でおじさんが不意に、地震の話を始めました。
日本は環太平洋地域に属しているから、大変だよね、と。
私はその一言に度肝を抜かれました。
パ、pan pacific zoneだと!?
まさかその言葉を、ヤスリを片手に聞くとは思っていなかったのです。

その後も、ルクセンブルクがユーラシア大陸のどんな位置に属しているからここ40年この国には地震がないんだ、地震の原因と火山については、ギリシアとかも大変だよね、などなどやけに教養のあるおじさん。
なんでそんなに詳しいんですか? と聞くと、驚いた顔で、
「こんなの常識だよ。みんな知ってるよ。学校で習っただろう? 日本は大変だよ、ハンデが既にあるんだもの、本当に僕は同情してしまう。温泉は入ってみたいけれどね」と嫌味なくサラサラと。
そしてその最中も手は休めず、全く無駄ない、美しい大工作業を続けているのです。

知識のレベルが高くないか?
学校で習ったけれど私はその言葉自体忘れていたぞ?
その上、日本の素晴らしさをフォローしてくれる優しさよ?
ああ、仕事のできる男……
キラキラキラキラ、おじさんの笑顔がキラキラ……

浦氏曰く「なんとも豊かじゃないか」
私も同意見「豊かさって、こういうことなんでしょうね」

ルクセンブルク、世界で2番目に裕福な国(2017年)。
その圧倒的な眩しさに、クラリときた爽やかな朝でした。

鹿沼玲奈

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クライオーヴァ国際シェイクスピアフェスティバルのボランティアの皆さんと

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『テンペスト』ヨーロッパツアー報告会
■日時:2018年8月5日(日)15時~
■会場:大田区民プラザ 展示室
■料金:無料
■予約・問合せ:6月18日(月)予約開始
劇団山の手事情社
予約フォーム
TEL:03-6410-9056
MAIL:info@yamanote-j.org

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