稽古場日誌

methods&過妄女 水寄 真弓 2019/06/05

輝く……

10代の頃はバスケ少女だった。
その昔の訓練はパワハラの渦であり、1つ上の先輩たちは厳しく、
先輩達の練習中は爪先立ちで見学せねばならなかった。
かかとが下がれば「かかと〜!」と足で押し上げられた。
夏でも冬でもグランド20周は毎日あり、ペアになって
1人が1周走って戻ってくるまでもう1人は高い鉄棒にぶら下がる。
落ちたら1周追加だ。
水を飲むことは許されず、タオルを首から下げることもできない。
汗はTシャツの袖で拭いた、
山中の夏合宿では体育館の窓を開け、夜、無数に飛び込んでくる蛾が踏みつけられていく。
培ったものはバスケセンスではなく、体力と忍耐だった。
やがてその訓練から解放され、髪を伸ばし。パーマをかけ、化粧なんかも始める。
女の子としての輝かしくて楽しい生活の始まりだった。
なのに、うっかり足を踏み入れてしまった演劇界。
山の手事情社は、体育会系インテリ集団だった。
股裂きの姿勢で《滑舌》をする。舌の運動、アクセント、息の長さに注意しながら、股関節を強引にほぐす稽古だ。
全員が成功するまで股を閉じられない。間違えれば腹筋10回する。
感情を爆発させながらの《滑舌》稽古では声を枯らし、そんな歩き方しねえよな《歩行》を何百回も繰り返し、あり得ない体勢をとる《二拍子》で体を痛める。
毎日毎日そんな稽古を続け、「辛い、辛すぎる……」と何度ほざいたことか。
「明日も稽古か……」と遠い目をしながら稽古をサボることなく訓練をしてきた。
《山の手メソッド》には麻薬のようなやめられない魅力がある。
一見演技とは関係なく見えるこの訓練は、やがてお客様に見ていただける身体となって現れる。
どうやら輝く自分になれたようだ。
だいぶ歳を取った。同じように今からまたやれと言われたら。
もちろん断る。

水寄真弓

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劇団山の手事情社 創立35周年記念公演
『methods』2019年6月21日(金)~24日(月)
『過妄女』2019年6月26日(水)~30日(日)
会場=下北沢 ザ・スズナリ

詳細は こちら をご覧ください。

『methods』&『過妄女』

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