稽古場日誌

methods&過妄女 山本 芳郎 2019/06/15

精神年齢?

ここ数年どうも老け役が多いので困ります。
今回もお爺さんです。
僕もそれなりの年齢ですが、年寄を演じるにはまだまだ見た目が若いと自分では思っているので、老人を演じても無理があるんじゃないかと思ってしまうのです。
年寄になるためにいろいろ「演技」をしたりメイクで頑張ったりしますが、ホントの年配の人が醸し出すものには勝てないのです。

でも配役されれば仕方がないので、老人役の内面にアプローチしていくのですが、ここでひとつだけ役について考えるときに個人的に指針にしていることがあります。
それは “老人の内面なんてものはない” ってことです。
みんな内面は若いんです。

精神年齢などという言葉がありますが、老人がその歳に応じた精神年齢になることはないんじゃないかと思います。
小さいころは、それなりに歳を重ねた大人にはさぞかしオトナの精神が備わっていると思っていました。
けれど今の個人的な実感から考えると、男の精神年齢とくに女性に対してのそれはオジサンになってからも若いころとそんなには変わらないんじゃないかと思います。
もちろん大人になれば分別や教養もつくし、社会的地位も上がれば貫禄もつき見た目も変わるんですが、根っこの部分は中学生高校生のアホチンのまま変わらないと思うのですが……どうでしょう?
だからことさらに老人を演じようなどと無理をしなくてもいいんじゃないかと思っているのです。

そういえば、世阿弥も『花伝書(風姿花伝)』のどこかで、「老人を演じる時は安易に腰をかがめるな。老人は身体の自由が効かないだけで、むしろ若い風情で演じるのがよい」みたいなことを言っています。

女性は男に比べればそれなりに成熟していくような気がしますが、僕は男なので実際のところはわかりません。
けれど男性はいつまでも女性へのあこがれを持ち続けて若いころの自分に郷愁を抱きながら実年齢とのズレのなかで生きていくんだと思います。
そんなこと、どうでもいいことかもしれませんが、実はそのあたりの男女のズレがあらゆる文学のテーマを生み出す原動力になっているような気がしてならないのです。

まあ、とにかく今回の『過妄女』【かもめ】にも郷愁に縛られて苦しむ人間が何人も出てきます。
みんな中学生高校生のまま、大人の恋に苦しむんだと思います。
そこらへん、チェーホフはうまく描いています。

山本芳郎

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劇団山の手事情社 創立35周年記念公演
『methods』2019年6月21日(金)~24日(月)
『過妄女』2019年6月26日(水)~30日(日)
会場=下北沢 ザ・スズナリ

詳細は こちら をご覧ください。

『methods』&『過妄女』

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