稽古場日誌

外部活動 鹿沼 玲奈 2019/12/21

『あの出来事』終了しました。

みなさま、こんにちは、鹿沼玲奈です。
先日まで、新国立劇場主催公演シリーズ「ことぜん」Vol.2 『あの出来事』に出演させていただきました。
ご来場いただいた皆さま、ご声援いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

今回は俳優としてではなく「合唱団の団員」としての出演でして、主に歌を歌いました。
演出の瀬戸山さんからは、何か役が与えられている訳ではなく「鹿沼玲奈さん」として舞台に立ち、舞台上で起こること、主人公たちの苦しみや悲しみをただ見つめ、素直に反応することを求められました。
私は自分があまり好きではありません。なので、自分ではない誰かになろうとして山の手事情社の舞台に立つ訳ですが、今回はその自分を露出して、人前に立つことになりました。
要するに、いつもの山の手事情社の舞台とは180度違う姿勢で臨むことになったのです。
初日には開演10秒前まで手の震えが止まらず、周りの出演者を驚かせてしまいました(笑)。

合唱団員を務めたのは、オーディションで選ばれた30名でした。色々な方がいました。
ミュージカル、オペラ、演劇、大学生、主婦。それぞれ多彩なコミュニティの中で生きている方々です。
当然、いつもの舞台の作り方では上手くいきません。
例えば「良い声についての考え方」が違います。
今まで私がお芝居をする上で求めていた声は、明瞭で、重くて、分厚くて、私が出しているということをわかってもらえるような声でした。しかし、今回は合唱です。全体の声がまるで一つの声のように、ハーモニーを描かなくてはなりません。ふんわりと、柔らかく、お客様には私の声だとわからない方がいいのです。
発声練習から、いつもと違うことをします。なるべく力を抜いて、細く、軽く、声を出します。
こうして私は私の常識を、少しずつ「手放して」いきました。

そんなこんなで、全16公演。
山の手事情社の本公演は大体6、7公演ですので、いつもの倍以上の公演数でした。
しかしそれを経ても、私は自分を、そこまで好きにはなれませんでした。
「今回はうまくいった! 最高じゃん!」と思う舞台を作れても、終演して10分後にはドジを踏んでガックリきてしまいます。
お客様にお渡ししたかったものを、楽屋に忘れてきてしまったり。緊張が解けた反動で、思ってもいないくらいの大きな声を出してしまったり。
私って、なんてバカなやつ。なんて嫌なやつ。
でも、そんなことを思い巡らした後につく、溜め息の色は変わりました。
「仕方ない、私はこういうやつなんだ」と、私は私を「受け入れ」始めたのです。
今まではとことん自分を攻めて、抵抗してばかりでしたが、ダメな自分さえどこかクスリと笑えるようになっていたのです。ダメじゃ〜ん(笑)って。
この作品の中で、ひとつずつ自分を手放すことによって逆に、そういった自分が育まれていたのでした。
自分を少し好きになれると、他の人も好きになれました。自分のコミュニティも、もっと好きになれました。
これは私の人生の中でも、決定的な変化だったと思います。

ヘビーな内容のお芝居でした。それに正面から立ち向かったカンパニーでした。その一員であったことを誇りに思い、これからも自分のペースで、舞台を愛し続けていきたいと思います。

お客様、関係者の皆様、重ねましてこの度は誠にありがとうございました。

鹿沼玲奈

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