稽古場日誌

その他 太田 成美 2020/12/02

原体験

=========
新型コロナウイルスの出現によって、世の中から演劇をやる意義が問われております。
そんな中、今年も研修生が集まってくれました。その中には、それぞれに様々な理由や決断があったことでしょう。
そこで、今回の劇団員による稽古場日誌は「何故ワタシは演劇をやるのか」をテーマとして、今年度の研修生を応援していきます。
=========

私は岩手県遠野市出身です。
ゆっくり時間が過ぎていく片田舎の小学校で、毎年秋に学習発表会と称して、各学年全員参加の演劇や合唱を行っていました。
その中で最も思い出深いのが、小学校4年生の頃『ごんぎつね』で小狐ごんをやったことです。
放課後は勿論皆で稽古をし、昼休みは先生演出のもと、私と兵十(ごんを鉄砲で撃つ男)役の男の子だけでラストシーンなどの稽古をしました。国語担当でもある担任の先生はそれは熱心に稽古をつけてくれ、私も真剣に取り組んだように思います。そうして迎えた本番では舞台上で駆け回るのが楽しくて、銃で撃たれて倒れた後のまぶたを透かして入ってくる照明が今でも思い出されます。
そして無事本番を終えたあと、いつもはそれほど関わりのないような親御様からも褒めて頂き、「将来は女優だね!」ともいわれました。
その時から、「女優」は私のなりたい職業ランキングベスト3にランクインしました。
あの時の褒めてもらえた嬉しさや高揚感、先生や同級生が真剣に向き合ってくれた濃密な時間が忘れられなくて、今も演劇をやっています。

山の手事情社は、全員が一つの作品に真剣に最大限取り組み、その制作過程での変化をお互いが繊細に感じていける劇団だと思っています。
研修生も今稽古を重ねながら、少しずつそんな感覚を味わっているのではないでしょうか。

私は過去2年研修生をやりましたが、研修生のエチューダー(研修生期間を通して稽古をつける、担任の先生のような演出家)は手抜きなく本当に真剣でした。面白い作品を作るということに真摯で、そのため日々の稽古の出来一つにも敏感で、戦々恐々とした覚えがあります。
これからさらに稽古のギアが上がっていく中で、研修生達がどんな壁を乗り越えていくのか本当に楽しみです。

研修生の発表会では、体も心も縮こまってしまい易い昨今、きっと皆さまへ生のエネルギーとしてお届けできると思います。

太田成美

稽古場日誌一覧へ