稽古場日誌
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新型コロナウイルスの出現によって、世の中から演劇をやる意義が問われております。
そんな中、今年も研修生が集まってくれました。その中には、それぞれに様々な理由や決断があったことでしょう。
そこで、今回の劇団員による稽古場日誌は「何故ワタシは演劇をやるのか」をテーマとして、今年度の研修生を応援していきます。
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何故演劇をやっているのか。
個人的には、芝居を続けているとこの先何かとてつもなく凄い、味わったことのない感覚に出会えるのではないか、という期待があること。
とても不確かで、雲をつかむようなことかもしれないが。
あとは一人でも多くのお客様に、演劇や劇場に行くことの面白さを伝えたいということ。
僕は15年ほど前、下北沢のOFF・OFFシアターという小さい劇場で、観客ギュウギュウ詰めの桟敷席で、あるお芝居を観劇した。
あぐらもかけず、ずっと体育座りで、おしりが痛くても動かせず、冷や汗をかきながらそのお芝居を観たのだった。
普通なら「客にこんな思いをさせおって!」と腹の立つところかもしれないが、そんな不快感は起こらなかった。
芝居が面白かったのだ。
内容はほとんど覚えてないが、鮮明に覚えているシーンがある。
おそらく床屋でのシーンだったと思うが、小道具でなぜかパイナップルがまるごと出てきて、ヘタをその場で切って髭剃りの道具として使い、残った実の部分を俳優が音楽とともに踊りながら切り分けて観客にふるまう、というシーンだ。
僕は桟敷席にいたので、そのパイナップルをいただけた。
おいしかった。
正直、なんじゃこりゃ!? というお芝居だったが、おしりの痛みと諸々セットで面白い記憶として残っている。
演劇って、映画のようにお金をかけてリアルなものを観せることができない分、こういうバカバカしいことができる。それも魅力の一つである。
今年度の研修生にも、こういう劇場体験をしてほしいし、俳優としてもバカバカしいことをやってほしい。
谷 洋介